ヒーローは暁を連れて



「落ち着けって、爆豪」
「アァ!? 落ち着けっかよ自分の女が攫われてんだぞ!?」

八つ当たりだ。分かってる。だけどどうしてもなにかに当たらないと耐えられなかった。クソ髪も、それを分かってるかもしんねえが。
防犯カメラが馬鹿みてえにある場所に住んでいて良かった、と心から思う。犯人の顔も、あいつを抱えて連れ去って行った車のナンバーも、鮮明に映っていたから。マンションに走って戻るあいつの怯えた顔と、連れ去られる時の気絶した姿まで。ぎり、と歯を食いしばって、今にも駆け出しそうな衝動をぐっと抑える。

たまたまクソ髪が追っていた敵だった。んで、その上司てえなやつが俺がこの前ぶっ殺した敵。そういうことかよ。なまえは俺のせいで巻き込まれた。全力で取り返す。すぐにチームアップに加わった。早く。早く助けたい。早く。






「ねえ、意味ないよ、こんなことしても」

目が覚めて、すぐに状況を把握する。自分が想像してたよりもうんと低い声が出た。ぴくりと反応した若い男は、鋭い目付きでわたしを見下ろす。でも怖くない。勝己くんが睨むほうがずっと怖いから。…と言ったら怒られてしまいそうだけど、でも本当に、怖くなかった。

「俺の先輩は、爆心地のせいで捕まった!」
「は?」
「爆心地が居なけりゃ全部上手くいってたのに」

要するに逆恨みってことでしょ?爆心地はヒーローなんだから敵を制圧するのは当たり前で。ありきたりな倉庫みたいなとこに腕と足を縛られて床に押し倒されるわたし。痛いな。もっと丁重に扱えよ、と、思うくらいには冷静だった。なんでだろう、爆心地が来てくれるって、勝己くんが来てくれるって、勝手に安心感があったからかな。

「そのうち来るよ、爆心地」
「来た時に自分の女が犯されてたらどう思うんだろうなァ?」
「きっしょいな」

敵がわたしの上に跨る。ちょっと、さすがにこれはまずいかもしれない。縛られてるわたしには抵抗する術もないし、そもそも男の力には敵わないだろう。
外から何回か鍵のかかった扉を開けようとした音がしたあと、聞きなれた大きな爆発音がして。無理矢理扉がこじ開けられた。煙がたちこめるその先に、爆心地くんがいる。烈怒頼雄斗と、他にも有名なプロヒーローまで。

「っそいつから離れろぶっ殺すぞ!!!」

ヒーローらしからぬ内容を叫んだ爆心地と目が合う。良かった。やっぱり来てくれたんだね。迷惑かけてごめん。
安心したのは一瞬だけで、ガン、とものすごい音がしたすぐ、後頭部に激痛が走る。ああ、なんかで殴られたのかもしれない。起き上がろうとしたわたしはまた意識を失った。





拠点は此処だ、と着いた場所はいかにもな倉庫だった。何回か扉を引いてもびくりともしないから鍵が掛かっていることが分かる。馬鹿が、この俺に鍵なんて意味ねえんだよ。
無理矢理扉をこじ開けると、なまえがいた。跨ってる男とは別の男がなまえの後ろから近づいて、金属バットで後頭部を殴る。倒れたなまえの血が床に流れて、ヒュッと喉が鳴った。許さねえ。ありえねえ。ぶっ殺してやる。そこからはもう記憶が曖昧で、気づいた時には敵が二人とも気絶していた。俺も返り血を浴びていた。「おい、爆豪、これ以上やったらお前が」とクソ髪に止められて、そこでようやく俺の体は固まる。

「……なまえは」
「病院!さっき搬送された!」

怒りの頂点を越えると、記憶がなくなるんだな。と、俺は他人事のように思った。



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