君のために描いた夢




「良くお似合いです〜!」

にこにこと綺麗な笑みを浮かべる店員さん。わたしたちの左手の薬指にはきらりと光るシルバーの指輪がはまっていた。
単純に一目惚れだ。シンプルで可愛いし、ペアだし。しかもそれが勝己くんに似合いそうだったから、つい立ち止まってしまったのだ。まだ数ヶ月しか経ってないとか、そんなことはどうだっていい。

「か、買います」
「ハァ?」
「お買い上げありがとうございます〜!」

ハートが三つくらい付いていそうな猫なで声で、真っ赤な唇が弧を描く。丁寧に梱包されたそれを受け取れば、ドキドキとわくわくと、幸せな感情に胸が押しつぶされそうになった。「末永くお幸せに」だなんて言われながら見送られてお店を後にするわたしたち。良かった、周りからはちゃんとカップルに見られている。

「………なんで買った」
「駄目だった?」
「駄目じゃねェ、けど、こういうんは男が買うモンだろ」

少し不貞腐れたように唇をとがらせた勝己くんが数歩先を歩く。猫背で、ガニ股で、一歩一歩がデカい。その後ろ姿も愛おしくてたまらない。大きな背中に飛びつきたい欲をなんとか堪えて、小走りで近寄ったわたしは腕にしがみついた。

「いつか買ってね」

約束。叶わない約束。だけど言うだけタダだし夢くらい見たっていいでしょう。「ん、」と小さく頷いた勝己くんに促されて近くのベンチに腰かける。

「…それ、俺に着けさせろ」

箱をあけて、二つの指輪を取り出した勝己くんがわたしの右手をとった。少し震えてるのは気のせいだろうか。サイズはぴったりで、するすると薬指を通っていく。なんていうか、わたしのためにあるみたいだ。元々そこにあったものだと錯覚してしまうくらい。

「ね、勝己くんにはわたしが着けてもいい?」
「ん。」
「…そういえば、左手じゃないんだ?」

勝己くんが出したのも右手だった。指輪が通った自分の右手をじっと見ていた勝己くんがわたしを見つめる。

「ホンモノ左にくれてやっから、それまで右を死んでも外すな」

あ、顔赤い。照れてる。

「…死なないもん」
「うっせ、大人しく待っとけ」
「うん、」

なにもついていない左手の薬指に小さくキスを落とす。勝己くん、そんなこと出来たんだ。そんなのまるで、結婚式で永遠の愛を誓う、あのシーンのよう。

「ねえ、写真撮らない?」
「………一回な」

インカメを起動して、反転したわたしたちを映す液晶。こんな幸せそうな顔していたんだ、わたしも、勝己くんも。シャッターを押す直前で、わたしの頬に口付けた勝己くんが、スマホを奪って写真を確認する。みるみるうちに上がっていく口角が、その機嫌の良さを現している。

「ハッ。アホ面」

わたしの頬にキスをする勝己くんと、頬を真っ赤に染めて驚いているわたし。

「え、ちょっと待って、もう一回…!」
「無理」
「意地悪」

変な顔をしているけれどそれはもう仕方ない。嬉しかったのでとりあえず勝己くんとのメッセージ画面の背景に設定しておく。

「勝己くんも設定する?」
「しねえ」

なーんだ。残念。


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