君は朝日にたじろぐ


ドアが閉まるのと唇が塞がれるのは同時だった。角度を変えて、確かめるように何度も口付けられるだけで胸がいっぱいになる。ギラギラと欲に塗れた赤がわたしを映す。いつもよりも性急な手つきなのに、いつものように撫でる手は優しくて、合間に漏れる吐息も、なにもかも、たまらなく好きだと思った。
同じように求められてるはずなのに、学生の頃の名前もよく知らない人に身体を委ねているときとは大違いだった。爆豪がわたしのことを好きで、わたしも爆豪が好きで、この先も一生に居たいと思っていて、それだけでこんなにも。
「考え事してる余裕あんのかよ、」
「ん、ばくごうのこと考えてた」
「……クソ、おまえ、ずりーだろ」
動きを止めた爆豪の顔がみるみる赤くなっていくのを見て、優越感すら覚える。爆豪のこんな顔を見れるのは、一生でわたしだけなのだから。
不安はゼロじゃない。終わりはくるかもしれないという恐怖は今でもある。だけど、それでも、死ぬまで一緒に居たいと言ってくれた爆豪の気持ちに答えたいと思った。
「おい、目開けろ」
「?」
「誰に抱かれてんのかちゃんと見てろ」
「ばくご、」
「うん。なまえ 」
服を脱ぎ散らかしながら寝室に移動して、何度も眠ったベッドに沈む。数ヶ月なんて一生で考えたらたいした時間じゃないし、配置だってなんにも変わっていないのに、どこか懐かしさを感じる。爆豪の匂いでいっぱいな部屋。柔軟剤でも香水でもルームフレグランスでもない、爆豪の匂い。胸がきゅっとなって、視界が潤む。好きだと思うだけで泣くことがあるなんて、そんなの今まで知らなかった。

あのあと、大規模な作戦は決行された。死者は出なかったけれど、重症を負うヒーローはたくさん出た。わたしたちは軽い怪我で済んだ。自分に課せられた任務を終えて、爆豪を視界に捉えたとき、身体が勝手に動いていた。爆豪もそうだったんだと思う。生きているのを確かめるように、再会を待ち望んでいたように、強く強く抱き締めあった。多分、中継中のテレビ局のカメラにも抜かれたけれど、そんなのどうでもよかった。
手を引かれるがまま、着替えをする時間すらも惜しくて、一般市民に怖がられないようにと簡単に傷だけ拭って、婚姻届を出しに行った。指輪はその時に受け取った。作戦決行日の前日に買いに行ったそうだ。もしどちらかが死んでいたら一生つけることのなかった指輪。絶対死なない、と、覚悟の証のようにも見える。キラリと輝くダイヤが眩しくて、身体を撫でる爆豪の左手が肌に触れる度に結婚したことを実感する。
「爆豪、すき、すき、」
「ん。俺も好きだ」
愛おしむような表情をわたしだけに向けてくれる。わたしも同じように返せてるかな。首に腕を回して口付けると、爆豪は嬉しそうに笑った。その日、人生で何回したか分からないセックスの中で、一番気持ちよくて一番幸せだった。



鳴り止まないバイブレーションの振動で目が覚める。倦怠感と幸福感に包まれながら重い瞼をあけると目の前に爆豪の寝顔があった。
珍しいな。セフレの時も、一緒に住んでいる間も、爆豪の方が先に起きていたのに。眉間のシワもなく穏やかな表情で寝息をたてる爆豪に、寝てる時は可愛いんだよな、なんて寝起きのぼんやりとしながら眺める。
…あ、そうだ、通知。
携帯を手に取ると、雄英高校時代のクラスラインが忙しなく動いているようだった。『結婚マジ!?』『幸せになれよ』『別れた報道あったときマジびびった』『結婚式楽しみにしてる』と。先生からも、『おめでとう』と。みんなに伝わっているということは、ネットニュースかテレビにでも出たのだろうだろう。未だ届くメッセージに笑っているともぞもぞと爆豪が動いた。
「おはよう、爆豪」
「…はよ。バイブうっせえ、」
「クラスラインだよ。爆豪の方にも来てるでしょ?」
「あ?あー、通知オフだからわかんね」
大きな欠伸をした爆豪は、触れるだけのキスを落とした。甘い朝に夢なんじゃないかとすら思ってしまうけれど、頬を抓ると痛いし、この腰の痛みが現実だとわたしに知らしめる。
「身体へいきか」
「うん。大丈夫だよ。爆豪は?」
「俺はむしろチョーシ上がっとるわ。つーか」
「?」
「いつまで爆豪って呼ぶんだよ。お前ももう爆豪だろ」
「あ、あー、そっか、そうだよね」
かつき。かつきくん。かっちゃん。色んな呼び方を試していると、かっちゃんだけは辞めろと眉を顰めた。未だにかっちゃんと呼ぶ爆豪の幼なじみの顔が思い浮かんで、少し笑える。
確かめるように左手の薬指を撫でた爆豪は、「夢じゃねえんだな」と目を細める。そういうの、ずるいんだって。
「…寝る」
「珍しいね、二度寝」
「お前の隣だとよく寝れんだよ。久しぶりに爆睡した気がするわ」
「たしかにそうかも」
「昨日がっつきすぎたしな。お前ももうちょい寝れば」
誘われるがまま爆豪の腕の中に戻ると、眠気がやってくる。次に起きたら名前で呼んでみよう。きっと「ジョーデキ」とまた嬉しそうに口角を上げるだろう。爆豪よりも先に起きて朝ご飯も作りたい。時間的にはお昼ご飯かもしれないけるど。爆豪が悪くねえと言いながら箸を進めるのを見ているのも好きだったんだ。
幸せを噛み締めるようにぎゅうっと強く抱きしめると同じように返してくれた。強すぎて痛いくらいだけど。力加減を知らないんだろうか。いや、知っててやっているんだろうな。胸に擦り寄るわたしに「おやすみ」と爆豪は小さく呟いて、数秒後に聞こえる寝息に耳をすませる。さっき開けたカーテンから差し込む朝日が眩しい。今日はいい天気だ。
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