例えばふわふわのわたあめだとか、甘い苺がのったショートケーキだとか、あまったるくて女の子らしいものが似合う男の子だとわたしが勝手に解釈してる、芥川慈朗くん。しゃべったことは片手で数えるくらいしかなく、とどのつまりわたしと彼はただのクラスメイトという関係で、それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ、こんなぼろぼろで情けない状態の自分を見られたことに動揺を隠せなかった。


「なんで泣いてんの?」


うかつだった。昼休み以外なら、ましてや授業中なら中庭に来る人はいないだろうとふんできたのだが、どうも誤算だったらしい。のっそりと上半身をおこした芥川くんは眠たいときのとろんとした目じゃなくて、まんまるい目を驚いたようにしきりにぱちぱちと動かした。驚いたのはわたしも同じで、一瞬だけ涙が目の奥にひっこんでしまった。


「違う、これは、汗なの」
「え〜嘘だあ」


……確かに今のは我ながら苦しい言い訳だったと思う。だけど、この人気者の男の子にどうして、失恋したから泣いてるんですと言えようか。

依然としてきつく唇を閉じてだんまりをきめこむわたしに、芥川くんは困ったように頭をかいた。それから自分のとなりのスペースをぽんぽんと叩いたから、断る理由のないわたしはそこに腰をおろした。なんだか、変な感じ。芥川くんはこっちを見ているわけではなく、青くて広い空をぼんやりと仰いでいた。彼の横顔を見て、わたしも芥川くんぐらいかわいかったらなあ、と見当違いの考えを胸の底におしやった。馬鹿らしい、そう思ったらまた目頭が熱くなってきて抱えたひざに顔をうずめた。ひんやりとした感触にだんだん心が落ち着いていく。


「おれさあ、」


うずめていた顔を上げた。太陽に反射するように芥川くんの金色の髪が一本一本きらきらと輝いている。その時、初めてちゃんと芥川くんと顔を合わせられた。


「おれって不器用だから、忍足みたいにうまく慰めの言葉かけたり、がっくんみたいに面白いことして笑わせたりとかできないけど、こうして一緒にいることならできるよ」


芥川くんの無邪気に崩した笑顔は太陽みたいだった。彼が人気者な理由が分かった気がする。言われた言葉を理解すると恥ずかしくなって抱えたひざに視線をおとして、拙い口調でありがとうともごもご呟いた。


「おれ何にもしてないよ」
「ううん、なんか、きみに救われた」
「へえ、まじまじ?」
「まじ」


うなずくと、芥川くんはふにゃりと笑った。どうして今のいままで芥川くんを女の子らしいと思っていたんだろう。彼は思っていたよりもずいぶんと男らしくて素敵な人だ。

手の甲で目元をぬぐうと、涙はとうにかわいていた。さっきまでの悲しくて、暗く深い海に沈んでいた気持ちはいつのまにやらどこかに置き忘れてきたかのようだった。

穏やかな風がふわりと頬をなでる。そしてわたしは、ようやく春の訪れを感じられた。



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