近所に住む幸村くんは、超がつくほど生意気ながきんちょだ。女の子と見間違うくらいきれいでお人形みたいな顔のくせに、口を開けば出てくるのは屁理屈ばっかり。おまえほんとに小学生かよ、と思うときもある。ていうか実際に本人に言った。しかし彼はにこにこしながら「おねーさんこそほんとに高校生?小学生の間違いじゃないの?」と、なんでもないように言いはなったのだ。物怖じしない性格はいいことかもしれないけど、わたしは彼にちょっとばかしナメられすぎやしないか。


「あ」
「あ」
「がきんちょ」
「年増女」
「とっ…!きみさぁ、どこでそんな言葉覚えてくんの」
「小学校」


一体最近の小学校は子どもに何を教えているのか。それよりも小学生にとって高校生は年増女と思われてることに驚きだ。わたしはつい最近花の女子高生になったばかりじゃなかったのか。年季の入ったランドセルを背負ってる幸村くんは、黙りこくったわたしを見ると、薄い唇のはしをあげてにっこりと笑った。


「おねーさん、一緒に学校に行く彼氏もいないの?ふふ、さびしいね」
「う…うおおおおお!余計なおせわ!幸村くん、わたしはきみより4つも年上だからね。もっと敬いなさい」
「4つしか違わないだろ」


やれやれと言いたげに深いため息をつく幸村くん。なんだこれこれじゃあまるでわたしが年下みたいじゃないか。腑に落ちない。三歩ほど先に歩いてる幸村くんはふりかえってわたしを一瞥すると、まだ幼い手でわたしの手を握ってきた。


「歩くののろすぎだよ」
「え、ああ、ごめん」


いったいわたしは何に対して謝ってるんだ。心の中で自分につっこみを入れながら、ぐいぐいひっぱられていく手を何も考えずに見つめた。なんだか、「姉弟みたいだなあ」特にたいした意味はなく、それは極自然に口から出てきただけだった。しかし幸村くんはぴくりと眉をひそめると、それまで進めていた足取りを止めた。


「…俺はこんな姉、やだな」
「な、なにを!わたしだってやだよ!」


きみみたいな弟、と続ければ握られている手によりいっそう力が加わった。この小さい体のどこにそんな力があるのかと思わせるほど、ぎりぎりと締めつけられる痛みにおもわず顔をゆがめる。幸村くんはというと、いつものにっこり笑顔ではなく、うすら笑いを浮かべていた。そんな幸村くんを見たのは初めてで、ぞくりと背筋に悪寒が走った。


「ねえ、意味わかる?」
「意味って……いたた幸村くんほんとに手いたいから!」
「馬鹿」


手は離された。けど、すぐにネクタイをひっぱられて一気に幸村くんとの距離が縮まる。目の前には彼の端整な顔。どうしたらいいかわからずにきょろきょろと視線を泳がせていたら、つま先立ちをした幸村くんのやわらかい唇がわたしのおでこにあてられた。この一瞬の出来事を理解した瞬間、色々なことが頭をかけめぐってわたしはひとりで硬直してしまった。なにが一番驚いたかって、相手が彼だということだ。だって今の話の流れからしてまさかこんな展開になるとは誰も思わない。幸村くんの瞳にうつるわたしは、なんとも情けない表情をしていた。


「おまえは俺のことただのガキくらいにしか見てないんだろうけど、すぐに身長だって俺が追い抜かすし、あと数年もたてば4歳差なんて障害はなくなる。そのときはおでこなんかじゃなくて、ちゃんと唇にキスしてあげるよ」


生意気ながきんちょはわたしが思っていたよりもはるかに生意気だった。力の限り彼の肩を押しかえして、わたしの好みは美人系イケメンだから!と言ったあとにうわっこれ完全に幸村くんのことじゃん!と気づいたけど、そのまま来た道を戻るように走っていった。顔が熱い。幸村くんは鋭いからきっとわたしが真っ赤になってることも分かってるはずだ。あんな小さな男の子にどきどきさせられるなんて一生の不覚だ、と頼りない声でつぶやいた。ああもう、ばか。


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