「曽良くんってさ」
「なんですか」
「ムッツリそうだよね」
「そんなに死にたいんですか金棒でぶん殴りますよ」
「なぜ金棒を常備!?」


僕が鞄の中から金棒を取り出すと、彼女は小さく悲鳴を上げて椅子ごと後退りした。無論殴るつもりはない。面白いものを見れたので満足した僕はそれを鞄にしまう。しかし彼女はまだ警戒心を露にして僕をじっと見据えていた。


「曽良くんてサディスト」
「あなたがマゾヒストなだけじゃないですか」
「違うよ!」


不服そうな声をあげて彼女はあんパンにかじりついた。なんの刑事ドラマに触発されたのか知らないが、彼女の昼食は見る限りあんパンと牛乳だけのようだった。ここのところ毎日その組み合わせで、よく飽きないものだと思いつつペットボトルの蓋を開けた。


「曽良くんのおべんとおいしそうだね」
「あげませんよ」
「わ、わかってるよ!わたしはあんパンが好物だから別にいいし!」


強気に発言したものの、視線は僕の弁当一点に集中している。僕はそれを無視して卵焼きを口にほうりこんだ。途端に甘ったるい味が口の中に広がる。芭蕉さんはいつも砂糖を入れすぎだ。


「よだれ出てますよ」
「…はっ、いやこれよだれじゃないから、なんか…なんかの液体」
「どちらにせよ汚いです」
「む…いいよね曽良くんはいつもお弁当作ってもらえて」
「作ってもらえないんですか」
「わたしんち皆寝坊すんの。だからいつも買い弁」


まだ半分近く残ってるあんパンをコンビニの袋に戻し、彼女は机にぐだりとねそべった。眠そうに目を擦ってから自らの腕を枕代わりにし、なんだかわたし眠いんだ曽良ラッシュ……とか言ってきたから黙って頭に拳をふり下ろした。全力で。


「今ちゃんとご飯食べないと午後の授業受けられなくなりますよ」
「うわ曽良くんお母さんみたい……いや嘘です嘘!じゃあ曽良くんのお弁当くれたら食べる」
「しょうがないですね」
「え?くれんの?」
「嫌ですけど…」
「言うと思ったよ!もうだから曽良くんはいじわモガフガッ!」


何か言ってる彼女の口に甘ったるい卵焼きを突っ込んだ。飲み込んでからゲホゲホとむせた彼女は白い喉元を押さえ涙目になって僕を睨んできた。まったく怖くない。正直、面白いとすら感じる。


「死ぬかと思った……」
「あなたが食べたそうだったからあげたんです。感謝してください」


何か言い返してくるかと思ったが、彼女は黙ってうつむくだけだった。頬がほんのりと朱に染まっている。まさか本当にマゾヒストだったのか。


「曽良くんさぁ…」
「はい」
「気づいてないかもしれないけど、」
「ええ」
「さっきの、その、間接ちゅー……」


そこまで言ってから今度は真っ赤になって机に突っ伏して自身の腕に顔を埋めた。恥ずかしいなら言わなければいいものを。ふと自らが使ってる箸に目をやった。彼女が余計なことを言うから、使うことに躊躇いが持たれた。同じことを芭蕉さんが言ったら僕は即刻箸を折り捨てていただろう。でも、まだ箸は折られていない。


彼女の一言のせいで僕が動揺していると思われるのは癪だから、また卵焼きをつまんで食べた。やっぱり、甘ったるかった。明日から芭蕉さんに弁当をもうひとつ追加で作ってもらおうと思ったのは、ただの僕の気まぐれ。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -