短編 | ナノ
あの日の君は輝いていた



(長編とは別のお話)
(ED後)










「ブラック!」
「……え、何。どうしたのそんなに慌てて」


とん、と軽く腰に衝撃
ブラックはNに後ろから抱きつかれたのを感じた。

そのまま上を見上げればちらりと覗く若草色。自分の相棒と同じ色をした彼は、長い髪を初秋の風に靡かせ腕をブラックに絡ませていた。

「やっと見つけた」
「昨日会ったばっかなんだから"やっと"はおかしいでしょ。それにライブキャスター繋げれば」
「直接会って聞きたかったんだ。今日の朝、とても驚いたから」
「?」

ライモンシティを出て少し歩いたような道路。
どうやら街から走ってきたNは少し疲れているようだったが、ブラックはNのその反応に検討がつかないらしく首をひねった。とりあえずNの腕からするりと抜け出して向かい合う。

口が開いた。


「君、チャンピオン辞めるって」


どういうこと。



「あー………それか」
「それか、じゃないよ。どうして?君は」
「別にキミには関係ないでしょ。俺が自分の進む道を一人で決めてなんの問題がある訳?」
「っ」


言葉につまるN。

ああ、またやってしまった。
この電波が割と繊細なのをすぐ忘れる。

けれどそれを面倒だとあまり思わないのが不思議で、ブラックはNと居ると比較的心穏やかな自分に驚かされることが多かった。

目の前で悲痛の色を浮かべる綺麗な彼は、きっとTVか何かでそれを知ったのだろう。
ブラックはソウリュウのアイリスに位を譲ったのだと。

ブラックはしゅんとしてしまったNの頭を撫でたい衝動に駆られ、軽く頭を振った。何を血迷ったことを。


「……飽きたんだよ。頂点に。」
「…え」
「Nはあそこに立っていた時間が短いから分からないだろうけどさ、チャンピオンの座を揺るがすようなトレーナーって本当に少ないんだよ。あんな退屈な場所頼まれたって戻りたく無い。
……別にお前の存在でチャンピオン辞めたとかじゃないんだからそんな顔すんなよすげー目障り」
「目障りって酷いな」


口ではそう言いつつもNに特に傷付いた様子は無かった。
どこまでが本気かそうでないか位は判断がつく位には彼らも時間を共有している。


「あそこで暇潰す位なら他の地方にでも行って旅した方がよっぽど有意義だよ……お前はいつもみたく気にせず笑ってりゃいーの」

(だから、いつでも俺を振り回す早口電波であればいい)

心の中でそう呟いたブラックは、Nの目を覗き込んでゆぅるりと口端を釣り上げる。Nはといえば酷く蠱惑的なその笑みに数舜目を奪われてしまった。

これだから彼には敵わない。

Nは慌てて目を逸らすと、裏返りそうになる声を必死に抑えて「そうはいかないよ」と口に出した。声が震えていた様な気がしないでもなかったが気にしてはいられない。


「君は、いつも」
「何。俺がいつも?」


本音を幾重にも奥の箱の中にしまい込んで、絶対に悟らせない。もしかしたら今彼が自分に言った言葉が本音なのかもしれないし、下手をすれば180度反対の本心が裏にあるのかもしれない。


自分はヒトという生き物の感情に疎い。

ポケモンと過ごした時間が長すぎたのか。辛うじて英雄の片割れたる彼の心は他の人間よりは理解できる。それでも酷くひねくれた彼の言葉は自分を混乱させるのだ。


爽やかに吹き抜ける風が憎い。

曇りないまっさらな空に、重いほど純白の雲がぽつりぽつりと浮かんでいた。


Nは一先ず「なんでもないよ」と反論を取り下げ、小さくため息をつく。

せめて意趣返しをしてやりたい。


「……ブラック」
「なに」
「僕もついていこうかな」
「は?」
「だから」


精一杯の笑顔でブラックの顔を見る。


彼が自分の笑顔に弱いことは知っていた。

彼が自分の要求に弱いことは知っていた。

彼が自分の言葉に弱いことは知っていた。

彼が自分の存在に弱いことは知っていた。


「世界を見にいこうよ、二人で」
「世界?」
「そう、セカイを」
「二人で」
「うん。君と僕の二人で」
「そ」


ひとりで行くつもりだったけど、
彼も行くなら都合が良い。


もともと、ゼクロムと旅をする予定だったところをブラックに引きとめられたのだ。



「………しょうがないな」


彼が笑う。

苦笑いかもしれない。


彼が笑う。










何故か、本物だと確信していた。





……………………………………

何が書きたかったんだっけ。



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