蒼狼アルミナイズ | ナノ

自分勝手に描いた物語




「悪いねプロペラ頭。乗せて貰って」
「いーのよブラック!貴方からの頼みなんて珍しいし。直々に運転しちゃうわ………ただ、その渾名どうにかならないの?」
「冗談だよフウロのおねーさん」


フキヨセシティ飛行場。

俺は久々に持った旅用のバッグを背負って飛行機に乗り込んでいた。


「あたしはジョウトに野菜を届けるから、途中で下ろすわね。高いところ大丈夫?」
「平気だよ」


操縦席から俺に話しかけたのはフキヨセシティジムリーダーのフウロおねーさん。美人っていうより可愛いっていう形容詞が似合う。だけど俺は彼女のジムで人間大砲に入り壁に激突したことを忘れてない。彼女は大物だ。

挨拶に行った時、何で向こうまで行くつもりかと聞かれたのでロイヤルイッシュ号(ヒウンの街から出ている客船)だと答えたところ、ならフキヨセから飛行機で行けば良いと言われた。その後糞腹の立つおっさんのとこに行って荷物検査で引っ掛かったら大いにヤバいものを押し付けられたので俺はおねーさんの提案に乗ることにした訳だ。
ロイヤルイッシュ号はカントー行きが月一しかない。次の航海が半月後とか聞いたときにはチャンピオンの座に返り咲いて権力振りかざしてやろうかと思ったほどだーーーチェレンに止められたから止めたけど。


「ねえおねーさん、カントーってどんなとこ?」
「そーね………イッシュと比べると少し田舎かな。不便って程じゃないから落ち着いた雰囲気が好きって人もいるし。
あたしのお薦めはハナダシティの岬ね!!女の子に人気のデートスポットなの。ブラックも彼女が出来たら行ってみたら?」
「生憎予定がねーなぁ………」
「顔良いんだから自信持ちなさいよ」
「いや、ベル以外の女を泣かさずにそこまで連れていける予定の話?」
「うっわー、最低」


俺の方を見てけらけらと笑う彼女は暖まったエンジンの調子を確かめると、前を向いた。

あ、飛行士の顔になった。
ミラーで反射したおねーさんの顔付きが変わったのが解る。


「じゃ、安全運転加速上等!」
「言ってること矛盾してるし」


さあ、カントーに出発だ。





***




高度計が一定の場所を指し始めると、俺は腰に着けたモンスターボールを一つ手に取った。

「出といで、エイド」
「あ、あの時のタブンネ!君には苦しめられたなぁ……」
「…ああ、そうか。フキヨセはキミで戦ったんだっけ」
「きゅう!」


きゅうきゅう嬉しそうにおねーさんに挨拶するエイド―――タブンネ。フキヨセジムに挑戦した時はまだ一回り小さかった。


「ほら、見てごらん。高い……」
「きゅーう?」
「ん?お嬢はでかくて出せねえし、シュラウドはいつも飛んでるから。今日はキミだけ」


膝にぼすっと座らせて窓からの景色を見せてやると、俺の方を見上げてきたのでそう答えてやった。
おねーさんが不思議そうな顔をする。


「凄いねー、ブラック。あたしも手持ちの言いたいことは大体解るけど、そんなに詳しく解んないや」


『あの子』みたい。そう言っておねーさんは笑った。


「あの糞電波と一緒にされるとかマジで不快だから止めてくれないかな………影響は多少あるけどさ。つーかあいつばっか手持ちの言葉解るとかムカつくし」
「ブラック負けず嫌いだもんね!ま、それも君と君のポケモンの絆だよ。素敵!」
「きゅー」
「他はどーでも良いけど………この子達は、家族だから」


大人しく窓の外を見てるエイド(吸盤みてえに顔を窓にべったりくっつけてる。汚れるぞ)を眺めながら、俺はふぁあ、と欠伸をした。


「向こうで二・三匹くらい育てようかと思ってんだけど、お勧めとかいる?」
「おっとお、飛行タイプジムリーダーに聞くってことは飛行タイプが……」
「あーいや、別にそれ以外でも」
「調子合わせてくれてもいいじゃん!!」


突っ込まれた。


「うーん……いや、でもそうだなぁ、連れてきたのはどの子達?」
「お嬢……ジャローダとレシラムに、この子。」


エイドを指差すときゅう!と返事をした。元気だな。


「バランス考えると悪とか格闘とか、あと水タイプとかかなぁ……そういえばブラックの正規パーティって水タイプいないよね」
「あー……うん、まあでも控えに一匹いるから困りはしないけど」
「へえ、そうなんだ!今度見せてね」


今回のカントー行きでボックスに預けた一軍組はゼブライカにバイバニラ、ウィンディとサザンドラ、そしてランクルス。実はエイドは控えの子なんだけど、使い勝手良いし性格良いしで連れて歩くには申し分無い。


「うーん……空と海渡ること考えると、ギャラドスとかかなぁ。それ以外だとロコンも可愛いけど」
「全然知らない」
「出てくるポケモン全然違うからね。イッシュのポケモン連れてったら珍しがられると思うよ」
「ふうん。ジム戦とか有利かな」
「かもね」


ジム戦。飛行機が着陸するのはクチバとかいう港街だから、そこからの挑戦(と書いて殴り込みと読む)になるか。


「クチバって何タイプのジムなの?」
「電気タイプのジムだよ。あたしは苦手ー………」
「じゃあエイドで行こうか」


窓に引っ付いてるエイドをペリっと剥がして撫でる。


「きゅう」
「ん?どうした」


俺の膝の上に乗りながら、窓の外を指差す。つられて覗いた外に小さな島が見えた。


「………?島?」
「あぁ、あれはグレン島よ。何年か前に火山の噴火があって人も寄り付かなくなっちゃったけど。確かジムは残ってた」
「……じゃあ行くのにほんとに水タイプが要るな」


波乗り要員。シュラウドで飛んで……無理だな。目立つか。


「グレン島が見えたならクチバ港はもう少しね。ブラック、準備は良い?」
「ああ。エイド、一応ボール入ってて」
「きゅうっ」


俺がボールを掲げるとエイドは自分から飛び込んだ。


「(――――そういえば)」


俺はエイドのボールを腰に戻し、その隣に付けてあった機器を取る。

赤いボディに黒いライン。端に付けられたやけに可愛いツタージャのシールはベルに強制的に貼られた(……剥がれねえ)。通称ポケギアと呼ばれるそれは、イッシュで言うライブキャスターのようなもの。番号を登録して電話をするらしい。画面は切り替わらないので改良というより改悪だ。
カントージョウトではこれしか通じない……そして当然、イッシュとは連絡が取れない。

俺はそれと、鞄に入れていた無用の長物たるライブキャスターを取り出す。ライブキャスターのカバーを開いて(まあ当然圏外だ)、そこに無造作に挟まれたメモを取り出した。


「(………物は試しに使ってみるか)」



――――――――――

カナタ
×××-×××-××

――――――――――



去年の誕生日にギルにラチられて連れていかれたブラックシティのレストランのコック。料理は旨かった。…………料理『は』。
態々その日のためにカントーからギルに呼び出されたらしいそいつとは久しく会ってない――――いや、別に会いたくもない。

去り際に俺のポケットに捩じ込まれたポケギアの番号は、何度捨てても奴のエーフィの涙ぐましい努力(と言うか怨念)ですぐに手元に戻ってきたため、諦めてライブキャスターに挟んでおいた。連絡できる距離でもねえのになんの意味があんだよとその時は思ったけど、カントーに行くことになってしまった今から思うとエスパーかと思う。いや電波か。Νで十分だ。

取り敢えず動作確認のために若干失敗しつつも奴の番号を登録し、通話ボタンを押してみた。


数秒の沈黙。呼び出し音。

ブツッと音がしたかと思うと、久々に聞く声が機械越しに聞こえた。


『もしもしー、どなたかな。番号に見覚えがないんだけど』


何度聞いても気の抜ける口調。間延びしたそれは変わらない。


「相変わらずだな守銭奴」
『どうしよう、声と渾名だけで誰だかわかっちゃった。ブラックくん?久々だねー、オーナーのお店以来かな。一年ぶり?』
「っそ。ちょっとカントーに来ることになってね」
『お、そっかー!それで俺に態々電話してくれたって訳だね、ちょっとときめいちゃうなぁ』
「気色悪い」
『辛辣ぅ』


けらけら笑う電話越しの声。カナタこと守銭奴は、それで?と続きを促した。


「別に、ポケギアの動作確認にちょっと掛けてみただけ………あぁ、じゃあ俺の新天地出陣祝いに何か振る舞え」
『お、いーねぇ。俺もブラックくんに久々に会いたいし……じゃあ、今度会ったときに何か振る舞うよ。苦手なものは?』
「………キクラゲ?」
『………何か可愛いね』
「笑いたきゃ笑えクソコック」
『いやいや、笑わないよ。誰だって苦手なものはあるしね………じゃあ再会時には中華スープと中華あんかけと中華丼を』
「キミ話聞いてた?死ねよ」
『あっは、楽しみにしててねー』
「キミの破滅を祈ってるわ」


盛大な舌打ちと共に電話を切…………る為のボタンを一瞬探して、漸く見つけて切った。

………掛ける人間間違えたか?

俺が微妙な顔をしてポケギアを見つめていると、フウロのおねーさんが見計らったように言った。


「―――さてと。ブラック、大丈夫?」
「その大丈夫の意味が何かによるけど。着陸準備って意味なら平気」
「じゃあ良いね。シートベルトちゃんとしてる?――オッケー!今から着陸するわ!!」
「………よし、行くよ」


おねーさんの声に俺はボールホルダーをするりと撫で、3つのボールがカタリと揺れたのを確かめると、呟いた。









「さあ、面白くなってきやがった」









(《真実》の英雄が、降り立つ。)

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