蒼狼アルミナイズ | ナノ

空見上げて両手を上に







頂点は退屈なところだった。






これは俺の、俺を振り返る為の記録だ。









丁度2年前くらいになるだろうか、俺は幼馴染と一緒に生まれ故郷を旅立った。

隣の研究所に住んでたスタイル抜群の独身博士、アララギのおねーさんがくれたあの頃はまだ小さかった若草色した俺の相棒。それと初対面した時、幼馴染のベルとチェレンの二人と初めてバトルした。まだ三人ともバトルなんてしたことないほんの素人で、ポケモン貰った事に馬鹿みたいに興奮したベルが家の中だってことも忘れてバトルしようとか喚き出して向き合ったとこで気付いた、そこは俺の部屋だった。

テレビで見たような審判の真似事をしてこっちもまた興奮してるチェレンにアッパーカートを食らわせて、人の部屋で何する気だって説教かましてる途中だったのに結局ベルの阿呆が強制開始した。あの理不尽ったらない。

始まったら仕方ないかと開き直ってバトルした俺とベルは正直、チェレンが勝つんだと思っていた。
いつも頭の造りが良いチェレンが俺達三人の中で一番になる。ああ、まあ体力勝負は別だけど。それで勿論ポケモンバトルにも詳しくて、勉強も出来た所謂優等生って奴。まぁチェレンも多分そのつもりだっただろう。






そこで俺が二人に勝ってしまったことが、全ての始まりだった。






一応名前はクロノってつけたけど、雰囲気がそんな感じだったからツタージャのことはお嬢って呼んでた。正直ポケモン貰ってもニートしてたかった俺は母親と幼馴染(×2)に無理矢理旅に叩き出され、お嬢と一緒に旅をした。
行く先々で出会ったポケモンとバトルし喧嘩し時たまに仲間にし。バトルは血が沸騰してんじゃないかってくらい興奮したし、勝つのは単純に嬉しかった。そりゃ負けたい奴なんていないだろうし。
そのうち『人間からポケモンを解放する!』とか謳った狂人どもの軍団、プラズマ団別名ポケモントモダチ宗教集団が出てきたけど、主義思想とか語り合ったりすんのマジきめぇ、と鼻で笑い気にしなかった。あからさまに進路を邪魔された時は全力で殲滅したけど。

そんなこんなで、嫌々始まった俺とポケモン達の旅は、邪魔こそ時々入っても意外にも実に有意義で充実していた。喧嘩売って買ってポケモン育てて、ジムに挑戦して。手強いジムリーダー達と戦うのも、日に日に強くなっていく幼馴染と戦うのも、興奮でぞくぞくした。



トモダチ宗教との対立(俺は敵対した覚えはあまり無いんだけど)の中で、俺はNというお嬢と同じ色の髪をした電波理系男に会った。
半強制に拉致られたライモンシティの観覧車の中でトモダチ宗教の王(要するにトップだって言いたかったんだろう)だと暴露され、それからというもの俺の行く先々でバトルを仕掛けられた。非常にうざかった。
早口で歪な笑顔の数学オタク。ポケモンと話せるとかいうびっくり能力を持ったあいつは、ポケモンには滅法優しく人間には滅法淡白だった。ポケモンが人間に虐げられていると強い口調で言ったΝ。俺はそんな現状どうしようもないし存在するのが真実だと思ったから特にそれについて反論はしなかったけど、人間からポケモンを奪うのは違うんじゃねーの?と行く先々のトモダチ宗教による被害にイラッと来た。
人間はポケモンと共存してる。二つは対等なパートナー関係で結ばれてる場合もあんだから、そんな正しい関係を築く奴等すら引き離すのは間違ってる。

実際Νは旅をしながら、自分の思想に疑問を持っていったらしい(らしい、っていうのは俺は奴と違って電波じゃないから奴の言ってることを全て理解なんて出来ないからだ)。それでもポケモンにとっての《理想》を求めてあいつは《理想》の英雄となり、黒陰の竜ゼクロムを従え選んだ――――――俺を、《真実》の英雄として。

勝手に選んでんじゃねえよどつくぞ電波、と舌打ちしつつも俺は俺の思うポケモンと人間の《真実》を奴に突き付けるため、白陽の竜レシラムを従え彼と最後のバトルに挑んだ。



いつの間にか、最後のレジェンドバッジも手元に納めていた。



バッジチェックの道を進んでチャンピオンロードを抜け、四天王を倒した先にいたのは項垂れたアデクのおっさんと興奮した面持ちのΝだった。興奮状態のオタクきめぇ。地中から現れた城に姿を消したΝを追って城に入り、そこでΝの部屋を見つけた。

市松模様の壁に、真っ青な空の床。餓鬼の遊ぶような玩具が気味悪いほど溢れるその部屋の壁にはポケモンの爪痕が沢山あった。

Νの人格形成や幼少期を知るには、それで十分すぎるほどだったのを覚えている。

正直、あいつが父親(仮)の最低クルマユ野郎にどう扱われていたかとかどんな環境の中にいたかとかそんなの知らないし関係無い。知ったかぶりも同情もする気はなかった。
ただ、あそこまでの強い意思でもってチャンピオンすら倒した、そんなあいつとの戦いに心が躍った俺は相当のバトル狂だ、自覚はある。びりびりと張り詰める雰囲気、押し潰されそうなプレッシャー。最高のバトルに全力で挑み、Νの最後のポケモンを倒したときのあの感動は忘れられない。

その後最低クルマユ野郎ことゲーチスとの対決もあったが無事にぶっ飛ばし、Νは重荷が解かれたような晴れ晴れとした表情でゼクロムと共に去った。


『サヨナラ………!』
『またボロボロに負かしてやるよ、電波』


今度こそ自分の意思で世界を回る。その中で見つけたものがNの新たな《理想》になるんだろう。そうして見つけたあいつの本当の望みが、俺は少しだけ気になった。

だからこそ、また会う日まで俺はNの《真実》でいてやろうと思う。




さて、Nは俺に夢を叶えろと言った。夢ーーー、旅に出てから俺が望んだもの。
ポケモン達とずっと一緒に旅をしてきて、俺の意識はチャンピオンロードの先にある荘厳な宮殿に向けられるようになった。Νとの戦いの勢いそのままに再び挑んだ正式な四天王戦、チャンピオン戦。協会で定められた規定レベルではなく本気でチャンピオンの座をかけて行われたそれは、確かに今までのトレーナーと比べたら遥かに辛いバトルだったし奴等は強敵だったけど、




シキミおねーさんに勝った。
カトレア嬢に勝った。
ギーマの糞野郎に勝った。
レンブの兄貴に勝った。
アデクのおっさんに、勝った。



俺は、チャンピオンになった。







勝って、心から褒め称えてくるアデクのおっさん。家に帰って報告して、んで自分の事のように喜んでくれたベルにアララギおねーさん、母さん。奪って見せると不敵に笑ったチェレン。拍手でもって迎えたジムリーダーと四天王。チャンピオンとしてリーグの頂点に君臨し、手強い挑戦者達と戦える――――――そう、期待に満ち溢れていた。






そこに待っていたのは、クソつまんねぇ停滞。






規定レベルに合わせた制御装置をポケモンに付け挑戦者に相対する。今までにないバトルの形に少し戸惑いはしたが、これはこれで興味深いものがあった。
自分のポケモンよりレベルの高いポケモンを繰り出す挑戦者を今までのバトルの経験で捌いてく。アデクのおっさんは俺にそう説明する。時には勝つし時には負けると。けれど。


俺に勝てる人間は、いなかった。


規定レベルのチャンピオンに勝っただけじゃ次のチャンピオンにはなれない。ただトレーナーカードが更新されるだけだ。リミッターなしのチャンピオンに勝った人間だけが次のチャンピオンになれるらしい。そりゃそうだ、規定レベルじゃどんだけ戦術に長けていてもレベル差でごり押しされればどうしようもないし。
そういう意味でおっさんに《勝った》のは俺一人。だから俺も、規定レベル戦では負けることもあるんだろうと思ってた。



なのに。それなのにさぁ。


《規定レベル》の俺にすら、勝てる奴がいないとか、ないでしょ。



何度も挑戦してきて、その度に強くなってくる挑戦者も居るには居た。それでも、五回を過ぎた辺りでそいつらも一人また一人とリーグを去っていく。『どうせ勝てない』『ありえない』。根性ないこと呟いて、俺の前から去っていく――――瞳に絶望と挫折を灯して。
俺に、どうしろっていう訳?全力出さなきゃ良いの。そんなの最高に挑戦者馬鹿にしてんじゃん。されたいの?俺を責めるような視線を残して去っていく奴等に、俺はだんだんイライラするようになっていった。



強さを追い求めたままでいたかった。相棒達と脇目も振らず旅してた時期がどうしようもなく恋しかった。



俺は『来るところ』まで『来』ちまったのか?

冗談だろ、そんなのありえない。まだ俺は―――――俺のポケモン達は強くなる。



ここが停滞(行き止まり)なんて信じない。




そうして俺は、一度も振り返らずにチャンピオンの座を降りた。








「じゃあブラック、オーキド博士に宜しくね!」
「了解っす」
「ねえねえブラック、私お土産はぬいぐるみがいいなぁ」
「かんわいーの買ってきてやるよ、感謝しろ」
「観光にかまけて弱くなって帰ってこないでよ?」
「てめえがなチェレン。殺してやろうか」
「臨むところだね」
「言ったなこの眼鏡………で、土産は?」
「向こうのポケモン一匹。僕に良さそうなの選んで」
「OK。オタマロみたいな奴で」
「そうだな………電気タイプとか地面タイプとかがいい」
「無視かよ」



そうしてまた――――この始まりの町から、俺は旅立つ。

迷子の子供のように、《停滞》のその先を探しに。






「行こうか、お嬢。


―――――カントーへ」



あの時と比べると随分大きくなった相棒を撫でる。


お嬢は変わらない輝く瞳で、きゅいっと鳴いた。








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