蒼狼アルミナイズ | ナノ

2






空からの奇襲というものはいつの時代も有効である。
気付かれなければ。

「ピジョット、もう少し高度下げてくれ。タケシ、準備は良いか?」
「ああ、いつでも」


オツキミ山、入口上空。

そのまま空から頂上を叩こうとする阿呆を止めるのは一苦労だった。

『キミらは馬鹿なの……入口を向こうが塞いでる以上、襲撃確率の高い順に守りを固めるに決まってるんだから空なんて防衛の中心に決まってるでしょ。対空戦になったら明らかにこっちが不利なんだから、真っ正面から潰した方がかえって手っ取り早いよ』
『あー、確かにそう言われると』

………こいつら、2人で行ってたら大変なことになってたんじゃないか。
少しばかり頭が痛くなってきた気がする。

「よし、作戦開始だ!」

プテラとかいう岩竜に乗ってた糸目が合図と共に入口に向けて降下する。途中でボールを投げて、イワーク(ジム用のじゃない、所謂ガチパって奴だ)を出した。
ズドォン…と大きな地響きの後、土埃の晴れたそこには、イワークに乗った糸目が黒タイツ共を見下ろしている。

両者の対陣は、糸目が入口を塞ぐ形で背にし、黒タイツがそれを囲んでいる………悪くはない。突然の襲撃者に驚いた様子の黒タイツ共だったが、流石にある程度の教育は受けているらしくすぐに陣形を整えた。

「なぜ復活したのかは知らないが、このタケシ、ニビジムリーダーとしてお前たちを放置する訳には行かない!
ーーーー行け、グリーン!ゼロ!」

糸目の言葉に、剣山のピジョットは入口目掛けて急降下した。
巨体をねじりこむようにして洞窟内に入り、俺と剣山はその背中から飛び降りる。その最中でボールを一つ手に取り投げた。出てきたのは気合十分のエイドで、俺は暗くなった視界に慣れる為きつく目を瞑った。

「侵入者だと!?入口は封鎖しておいた筈……お前ら、どうやって此処まで来た!」

割とあっさり来れたけど。
声の方に目を向けると、外にいた黒タイツ集団と同じ格好をした人間が……視界に見えるだけでも6人。多すぎだろ。

「説明する義理はねーな、てめえらの悪事もこれまでだぜ!ピジョット、つばさでうつ!」
「ちっ……ドガース!ヘドロばくだん!」
「ズバット、きゅうけつ!」
「つばめがえし!ピジョット、ついでに向こうも蹴散らせ…エアスラッシュ!」
「エイド、おさきにどうぞ、あとてだすけ」
「キュウ!」

剣山は手近な黒タイツとバトルを始める。勿論一対多数のせいで戦局は良いとは言えないが、こいつ………割と強いのか。
指示は的確に飛ぶ。向こうのレベルが低いのは確かだけど、効率の良さには少し目を見張るものがあった。

ーーー戦い慣れ、してるのか?

「あれ、何か威力強くなったな。ゼロか?」
「……"てだすけ"はそういう技だから」
「そっか。サンキュー!」

剣山の勢いに圧された黒タイツ共が一度攻撃をやめる。じりじりと陣形を整えながら、その中の一人が俺たちをぎろりと睨んだ。

「お前ら、何が目的だ…!!」
「こっちの台詞だよ!!ジョウトの事件を繰り返す気なら、そうはさせねえ!」
「…ふっ、ジョウト?成程お前らあの事件の関係者か…」
「(いや違うけど)」
「キュウ……」
「…何エイド。そんな"空気読もうよ"とでも言いたげな目で俺を見るのやめてくれる?」
「一足遅かったな!実験はもう終盤だ、幹部の皆様は既に撤退の準備に入られている!」


饒舌な黒タイツその一が得意気に喋る。
つーかそういうのって守秘義務とか無いのかな。撤退完了するまで黙って足止めが定石じゃないのか。


……それにしても、煩い。




「逃がすもんかよ…!!」
「はっ、でかい口叩くな、俺達を倒したところでその頃には頂上には何も無い…無駄だ、遅かったんだよお前らは「うっせえ雑魚が喚くな黒タイツ」
「黒タイツ!?」


間近に居る癖にぎゃあぎゃあ叫ぶ黒タイツ(と剣山)にぴきりとこめかみに筋が浮き、俺はエイドに向かって指示を出した。


「エイド…かえんほうしゃァァァアアア!!!」
「キュッ!?……キッキュウーーー!」
「!?!?」


俺が指差したのは剣山の真横、ロケット団の黒タイツ。


「ギャーッ!!て、てめぇ人に向かって…!!なんて奴だ!」
「キミらに言われたくないよ。俺の近くで暑苦しくギャーギャー喚くのやめてくれるかな。馬鹿がうつる」


黒タイツその一が必死こいた笑える動作でそれを避け、その延長線上にいた奴らも次々と避けていったので頂上へ行く道への障害がなくなった。
……一人くらい当たってくれても良かったのに。まあこちらに都合のいい避け方をしてくれたのを利用しない手は無い。


「剣山、キミは上へ行け。
ーーーー俺は、此処を潰す」


ギルバートの手紙とか知るか。一時棚上げだ。


昔からの、性質なんだよね。


「エイド、テレキネシス。剣山向こうまでぶっ飛ばせ」
「剣山って呼ぶな!!……っ、ゼロ!怪我すんなよ!」
「はっ」


それだけ言い残してエイドに出口まで飛ばされて行った剣山を一瞥し、新しくボールを放る。


「くろいまなざし」


剣山を追おうとする奴らの動きを止める。
エイドは出てきた『彼女』を見て、とばっちりを喰らわないように後ろに下がる。ーーーー良い、判断だ。


「エイド、そのまま援護に入って。技は任せるから。
ーーーさあ、クロノ。害虫駆除の時間だよ」
「ーーキューイ」
「…ボロクソ言ってくれるじゃねえか…」


今までポケモンを出していなかった団員もボールを構える。一斉にかかってくるつもりか。




ーーーーー手間が省ける。


ニイッと唇を歪めて、俺は薄く目を閉じた。


「弱い奴ほど群れたがる…」


口々に飛ぶ指示。攻撃。怒声。
ざわめく雑音が鬱陶しい。




あと一瞬というところで、俺は無造作にふらりと手を上げた。






「お嬢。リーフストーム」




次の瞬間。




「キュイッ」




文字通りの緑の嵐が、吹き荒れる。






(そう。昔からーーーー蟻を見れば、捻じり潰したくなる。)






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