蒼狼アルミナイズ | ナノ

投じられた布石

「ゼロー、博物館行こうぜ博物館!」
「生憎小石程の興味もない」
「トーノー」
「キミもか………見て何か分かるのかよ」
「キュウ!」
「多数決じゃないから手上げても無駄だよエイド」


緑の渦巻きカエルにピンクのお茶目、


「なあゼロ!」
「人間のキミが一番聞き分けがないってどういうことなのか俺理解できないんだけど」


そして、人の話を聞かないいがぐりが一つ。




マサラの研究所で一泊した俺は、とっとと次の街に向かおうと朝食もそこそこに旅の仕度を始めた。

オーキドのじいさんは暫くゆっくりすればいいと勧めたが、目的が達成された以上ここにいても意味がない。ジムも回ってないしギルの手紙もまだ渡していない。後者はゴミ箱にぶち込むことも出来るんだけど…ぶち込んだあとが面倒そうだな。

そうこうしていると研究所に泊まっていたらしい剣山に呼び止められ、予定を聞かれて答えたところ奴は自らパシ……じゃない、送ると申し出た。その申し出を受けて今俺はここにいる。



ニビシティ。

険しい山間の街。


トキワから北に抜けた、標準的な大きさの街だ。
街の外装は質素なモノトーンで統一されているが、寂しいというよりは簡素さが際立つように思える。剣山のピジョットでそこに降り立った俺たちはーーというか俺はーー二匹と一人の博物館コールをスルーした。


「ニビっつったらここだろ!」
「ジム以外に用はない。つーかここまで連れてきたことには礼を言うけど、キミいつまでついてくんの?」

食い下がる剣山はなかなかしつこい。
勝手にボールから出てきたミカゲとエイドは期待に満ちた目でこっちを見ている…….…だから、キミらが行って楽しいもんじゃないと思うんだけど。

………はぁ。


「分かったよ行きゃいーんだろ行きゃ……但し、ジム戦終わってからね」
「よっしゃ、良かったな!」
「きゅー!」
「トノトノ」

…………流石の俺でも、自分のポケモンには弱い。

「で、ニビジムってどこなんだろう」
「ああ、こっちだぜ。あそこのリーダーは基本几帳面だからジムにいるだろ」
「…何、常時いないジムリーダーとかいるの」
「おう。ハナダのカスミはデートとかでいつもいないし、セキチクのアンズも仕事入ると消える」
「最悪じゃねえか」

職務くらい全うしろ。特に前者。
剣山はミカゲと戯れながらジムへ向かって行く。エイドとその後に続くと、クチバにあったのと同じ形の施設があった。

ーーーージムの前に、一つの人影。

剣山はそいつに気付くと手を上げて「 ようタケシ!」と声を掛けた。向こうも同じように「グリーン!」と手を上げる………ああそうだ、グリーン…剣山そんな名前だったな。

「どうした?ニビに来るなんて珍しいな」
「お前に挑戦者連れてきたんだよ。
………ゼロ、こいつがニビジムのジムリーダー。岩タイプを専門にしてるタケシだ」
「………。」

がっしりとした体つきの、細目っつーか糸目。剣山が几帳面だとか言ってたけど、何か見た目からしてぽいな。

「初めまして。見たことないポケモンだな……何処からきたんだ?」
「…イッシュ。」
「それはまたずいぶん遠いな。
……さて、グリーンからも言ったが俺はタケシ!カントー岩タイプのエキスパートだ!挑戦にきたってことだが、ちょうど暇してたんだ。今から挑戦するか?」
「キッキュウ!」

エイドが右手(……足?)をビッと挙げて意気揚々と瞳を煌めかせる。
が、俺はそんなエイドの額をべちんと弾いて剣山の隣のミカゲを手招いた。

「キュー!!」
「うっさい。今回はミカゲで行くよ、キミ前回戦ったじゃない」

涙目のエイドがむきゅむきゅ抗議する。何か痛いだのミカゲには危ないだの言ってる気がするが、やかましいのでむぎゅーっと両頬を引っ張った。

「むきゅーーー!」
「…何。新しい家族、信頼できないの」
「むきゅっきゅう!」
「でしょ。…ミカゲ、行けるね」

全力で首を振ったエイドに一つ頷いて、俺はミカゲを見つめた。

「………」
「いつも通りで良いんだよ。自分が信じられないなら信じなくて良い………
俺を信じろ」
「…トノ。」

ミカゲはゆっくりと瞬きした。

「……。」
「………。」
「…………何」
「…ああ、いや…何か、良いなと思って」
「意味わかんない。……とっとと終わらせるよ」

黙り込んだ剣山とジムリーダーを無視して、俺はジムに入って行った。







「……何か、印象と違うな……」
「だろ?ちょっと言動ひねくれてるけど。

手持ちへの愛情は本物なんだよなぁ」







***




「勝者、ブラックシティのゼロ!」

「強い、な……!」
「………ミカゲ、お疲れ。やっぱりできるじゃない」
「トーノー!」

最後のイワークとかいう岩蛇をなみのりで沈めたミカゲが、テンション五割増しでぴょこぴょこ跳ねてこっちに向かってくる。抱きとめたら潰されかねないので横にひょいっと避けると、アホ毛カエルは見事に床に激突した。
カエルが潰れたようなというか、まあ実際カエルが半分潰れてるんだけど、そんな声を出す。俺はそんなミカゲの頭を撫でながら糸目ジムリーダーの方を向いた。

「よく育てられて……いや、どちらかというと信頼関係が伺えるバトルだったな。このニョロトノとはいつ出会ったんだ?」
「……4日前くらい?」
「は?」
「4日前くらいだよね、キミと会ったの。」
「トノ」

こっくり頷いたミカゲに糸目が目を見開く。

「4日……そんな短期間でよくここまでの信頼関係を築けたな。ゼロ、君の人柄かな」
「もしそうなら俺の手持ちは相当な変わり者揃いだよ」
「ははは!成る程、稀有なカリスマ性だな!……さあ、受け取ってくれ。グレーバッジだ」
「……。これで二つか」

糸目からバッジを受け取る。そのまま2人でベンチに座っていた剣山とエイド(観戦したかったらしい)の方に向かうと、一人と一匹はバトルを見るどころか剣山の膝の上におかれた紙切れに夢中だった。

こちらが近付くと剣山はぱっと顔をあげて、「お疲れ」とヘラっと笑う。

「……キミ、ついてくる意味あったの?」
「ちゃんと見てたって、真剣に。お前の指示もだいぶトリッキーだけど、ミカゲもよく動けるな」
「別に、普通じゃないの」
「アレが普通なら他のトレーナーはどうなんだよ….
お前、やっぱり強いな。ミカゲのレベルでここまで戦えるトレーナーなんて久々に見たぜ………まあそれは置いといてだな」
「置いとくのかよ」

呆れたような声を出すと、剣山の隣にいたエイドがつんつん服の裾を引っ張ってきた。

「……どうしたの、エイド。っていうかその紙何?パンフレット?」
「あ、そうそう。博物館じゃなくてこっち行こうってなったんだよ」
「キュウ!」
「さっきは博物館行きたいって言ってたよね。コロコロ意見変えんなよミニスカートかキミらは」

同意するようにエイドが鳴き、剣山がパンフレットを見せてくる。俺はため息をついてそれを覗いた。

ーーーー《オツキミやま》?
パンフレットにはそれらしき山と、その頂上の様子が写真で示されていた。


「オツキミ山か……いいんじゃないか?今から昼食を食べて向かえば夕方ごろになるだろうし、運がよければピッピが見られるかもしれない。何なら案内するよ」
「よっし、じゃあ決定だな!」
「嬉しそうにするな癪に障る」
「理不尽!」

叫ぶ剣山に苦笑いの糸目、きゃっきゃとはしゃぐエイド。

「んじゃ、行きますかあ」

剣山は伸びをすると、へらりと笑って立ち上がった。













今思えば、少し気を抜きすぎていたかもしれない。



(エイドは何でここに行きたいの)
(あ、ピッピに会いたいらしいぜ)
(……何で)
(さあ。ほら、両方ピンクだし)
(んな馬鹿な…)
(きゅー)
(そうだキミ割と馬鹿だった)






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