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お嬢は気持ちよさそうに光合成始めてるし、エイドはエイドで俺の隣にぽすんと座り込んだ。ミカゲは待ってましたとばかりに俺の頭によじ登………ろうとしたので全力で引っぺがして投げる。うん、やっぱりよく跳ねるね。
「この緑のとピンクのは?」
「緑の蛇みたいな方がジャローダ。イッシュの草の御三家だよ。この子はタブンネ…まあ、ラッキーとかハピナスみたいなポジション」
「へぇー!!初めて見たぜ!向こうのはニョロゾだろ?何で進化させないんだ?」
「……進化?まだあの子進化するの?」
「おう。知らなかったのか……2パターンあるんだ」
剣山は自分の図鑑を取り出して(こいつ図鑑所有者だったのかと初めて気付いた。俺やチェレン達のとは少し違う)芝の上に座り込む。俺はその隣に胡座をかいて、エイドを足の上に乗せた。
「ほら、これとこれ。ニョロボンとニョロトノ……ニョロボンにするなら水の石、ニョロトノにするなら王者の印持たせて通信交換。二ョロトノにするなら手伝うぜ?」
「……ミカゲ、ちょっとおいで」
「ろぞ?」
お嬢にお手玉感覚でぴょんぴょん投げ上げられていたミカゲがこっちを向く。
………ちょっと待てお嬢、何だその尻尾の構えは
《ぽーんぽーん》
「キュイッ」
《バシィッッ!!!》
「…ッ、ええっ!!!」
「ろーーーーぞーーーー」
剣山が驚いてるけど知ったこっちゃない。お嬢がミカゲをこちらへ思い切り弾いた。抵抗しろよミカゲ。
「エイド、テレキネシス。止めろ」
「キュウ!」
「何でお前そんなに冷静なの!?」
「慣れてるし」
お嬢とのじゃれ合いくらい日常茶飯事だ。
「キミ、どっちが良い?王者の印も水の石もあるから好きな方選びなよ」
「ろぞ?」
「…だから、進化だよ。どっちがいいの」
剣山の図鑑をミカゲに見せて、これかこれ。と指差した。
ミカゲは首(…首?頭?)を傾けて悩むような動作を一瞬したあと一声鳴いて片方を示す。………ふぅん。
「カエルが良いの?」
「ろぞ。」
こくりと頷いた。
「よし、じゃあ、通信交換だな」
剣山がミカゲをぐりぐり撫でて、図鑑を操作しはじめる。
俺はカバンから古ぼけた小さな王冠を取り出してミカゲの頭に乗せた。一度ボールに戻して自分の図鑑を開く。通信交換の準備が整うと、俺と剣山はお互いに図鑑を向かい合わせにした。
「いくぜ」
「早くしなよ」
通信交換なんて久しぶりだ。最近はチェレンに手伝わされるようなことも無かったし。
図鑑の発光にボールが吸い込まれ、暫くしてポンっと音を立ててボールが飛び出して来た。中を覗くとそこに見えたのは見覚えのある茶色の塊………嫌味か。何でイーブイを交換に出してくんだよ。
「イーブイ……」
「可愛いだろ!」
「心の底からどうでもいい。早くミカゲ戻そうよ」
ずいっと図鑑を突き出せば、剣山は「可愛いのに……」とぶつぶつ言っていた。可愛い?コレが?俺の掌の無数の傷の生産者のコレが?
帰ってきたミカゲをボールから出すと、カエルになっていた。
緑と黄色が基調のポケモン。これがニョロトノか。
ニョロトノーーーミカゲはくいっと右腕をあげて「やあ」と言わんばかりにトノ、と鳴いた。
思わずやあ、と俺も腕を上げて返してしまう。様子を見ていた剣山が吹き出したので脛に蹴りを入れた。自業自得だ。
「いてえ……!」
「はっ、ざまァ見ろ。阿呆面晒してるからそうなるんだよ」
「前言撤回!てめぇレッドに似てなんかねえ!レッドはここまで横暴じゃない!」
「ここまで、ってことは其れなりに横暴なんだね」
ぎゃあぎゃあ喚く剣山をいなしながら芝生の上に寝転がる。膝に乗せていたエイドを横に転がしてミカゲを手招いた。
「おい、人の話を」
「聞けっていうならもっと実のある話をしなよ。……眠い。寝る。ミカゲ、おいで…」
「トノー」
横に寝転がったミカゲを撫でて目を閉じた。日差しが柔らかくて絶好の昼寝日和だと思う。
「おい、ゼロ………うわ、もう寝てるよ。自由な奴だな……」
剣山が何やら言ってるのをBGMにして、俺の意識は沈んでいった。
(おーい、グリーン!)(なんだよじーさん)(イーブイがこっちに来とるぞ)(また抜け出したのかよ!イーブイーー!!)
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