蒼狼アルミナイズ | ナノ

移ろうは過去の空蝉 1



「君がアララギくんのお使いか。ゼロと言ったか?イッシュはどんなところかな」
「………。ここよりは、都会」
「はっはっは!カントーは田舎じゃからな。だが自然はいいものじゃよ、わたしはおかげでこの年でもピンピンしておる!」
「………はあ…」
「じ、じーさん、それくらいにしとけよ(機嫌悪くなってる!!)」


剣山みたいないがぐり頭が俺とジジイを交互に見てゆらゆら揺れてる。
忙しい野郎だな…それにしてもうるさいこのジジイ。研究嫌いっていうと俺の手持ちだとベリアルか。連れてくれば良かった……完膚無きまでに叩き潰してくれるだろう。


***


腹立つ笑顔のイケメンこと剣山に連れ出されたのはさっきの道路よりも更にほのぼのした雰囲気の町だった。

マサラタウン。

まっさら、はじまりのまち。

その片隅に町に似合わない堅牢な建物がオーキド研究所。他には幾つか民家があるくらいで、特筆するべきところは特にない。
データを取り出すからと言ってポケモン図鑑をジジイに奪われた俺はすることもないので剣山と町を散歩することになった。

イーブイ(というらしい)の親だった剣山とはトキワで会ったんだけど、まさか目当てのオーキドユキナリの孫だとか誰が予想できただろうか。俺の隣でへらへら笑ってる剣山型の髪型の野郎は驚きの系図の人間だった。


「こっちが俺の家」
「頗る興味ないよ。頼んでもいない人間に自分の家紹介するとか自意識過剰?」
「…お前何で俺にそんな攻撃的なんだよ…」
「大多数の人間には大概こんな対応だけど」
「それもどうなんだよ。…んで、こっちが」

剣山は律儀に一つ一つの建物を紹介してくけど、一般人の家とかミジンコ程の興味もない。
欠伸を隠しもせず目をこする俺に苦笑いしながら剣山は隣の家を指差した。

「ここはレッドの家。俺の幼馴染で…」
「レッド?」
「あれ、知ってるのか?」
「…クチバジムで、探してみろとか言われた」
「へえ、じゃあゼロは強いのか。あのマチスがなぁ…レッドは元リーグチャンピオンだよ」
「でも、居ないんでしょ」
「ん?あー、そうだな。…全くあの野郎、おばさんに心配ばっかかけやがって…」
「そう」
「興味なさそうだな」
「実際興味ないからね」

《レッド》の生い立ちとか心底どうでも良い。
大切なのは、そいつが強いって事実だ。

剣山は少し目を見開いて、そのあとレッドの家を見上げて笑った。

「…マチスが何でお前にレッドのこと話したか分かった気がするよ」
「は?」
「うん。似てんだよなお前ら。"世界から飛び抜けちまった"感じが…何つーか、枠組超えて周りも気にしないで、自分のやりたいことだけ突き詰める」
「……何言ってるかわかんないけど?」
「ははっ、俺も自分でよくわかんね」

右手で無造作に頭をかく剣山。「そろそろ研究所戻るか」と言って足の向きをくるりと変えた。

「ただ」
「……」

「お前とあいつは、たぶん鏡合わせみたいなもんなのかなってさ」

達磨が認めた。
剣山が語った。
胸の奥、久々のジム戦でくすぶり始めていた火種が……

鮮やかな漆黒に、燃え上がる。


***


「ところでゼロ、お前の手持ちってどんな奴らなんだ?」
「何いきなり。」

研究所に戻ると、ジジイが笑顔で図鑑を返してきた。助手共と興奮してる様子は見るに耐えねえ。これだからヲタクは……
裏庭にポケモンを放し飼いにしているらしく、剣山にそこまでひっぱって来られたところでの台詞だった。

「いや、カントーに来てるけどイッシュのメンバーのままなのかと」
「…半分くらいはボックスにいるよ。今は………出といで、お嬢、エイド、ミカゲ」

「キューイ」
「キュウ!!」
「ろぞろぞ」

シュラウド以外の三匹のボールを宙に放り、庭に出した。



prev / next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -