蒼狼アルミナイズ | ナノ

揺らめいてまた、陽炎





「エイド、避けろ」
「そんなの無理……」
「は?」

俺はにやりと笑う。

「俺の手持ちを、他の子と一緒にしないでくれる?」
「キュウゥゥウッ!」

放たれた十万ボルトをエイドはれいとうビームで軌道を逸らしながらライチュウに近付く。俺は右腕をゆっくり上げて、エイドに指示を飛ばした。

「なっ」
「そのままかえんほうしゃ」

纏った冷気が一瞬で燃え盛る業火に変わり、小さな電気鼠を吹き飛ばした。

「ラーイッ………!!」
「畳み掛けろエイド、めざめるパワー!」

エイドのめざめるパワー。
属性は、地面だ。

「ライチュウ………!!ほうでん!!」
「させるな、とっしん!」

かえんほうしゃで吹き飛ばされた後追撃され空中から落ちてくるライチュウが何とか力を振り絞ろうとするけど、エイドの技の威力はその遥か上を行った。
重力加速度と、技の負荷。土煙が晴れた頃にはライチュウは目を回していた。

「ナイスファイト、ライチュウ!…………ゼロ、てめぇほんとに強いな……!」
「漸く名前で呼んだね」
「てめぇも呼べよ!………頼んだぜっ、エレブー!」
「ブー……!!」

二体目は黄色と黒の人型ポケモン。凶悪な目付きがウザい。

「エイド、めいそう」
「させるかよ!エレブー、でんこうせっか!」
「…!」

エイドの周囲が特殊な念場になりはじめた瞬間、エレブーが物凄い勢いで突っ込んできた。
図体がデカイ分勢いも強い。エイドは宙に飛ばされる。

「――――テレキネシス!着地しろ!」
「キュウッ」
「ヒュー、考えるな」

空中で自分に向けて念力を発動させて体制を立て直す。
…………ダメージは少なくても、こっちのリズムを崩しに来たか。やるじゃん。
口端をきゅっと吊り上げ、戦況を見据える。

「エレブー、あまごい!」
「エイド、おんがえし」

エレブーの腹にエイドが突っ込む。エレブーはものの見事に吹っ飛んだけど、達磨は笑った。

「あまごい終了!エレブー、かみなり!!」
「十万ボルトで向かい撃て!」
「無理だろ?」
「さっきから無理無理うっせーんだよクソ達磨!」

舌打ちをしてフィールドに視線を戻す。さぁ、そういうことは実際に見てから言うもんだよ。

「キュウゥゥウッ!!」
「Sit!!どうなってる!!」
「エイド、こっちも御見舞いしてやれ………かみなり!!」

エレブーのかみなりは真上に放った十万ボルトで相殺される。攻撃が途切れた一瞬の隙を狙ってエイドは一際高く鳴いた。

「エレブー!」
「止めだ、とっしん!!」

許容量を越えたかみなりの威力にふらつくエレブー。エイドがそこに畳み掛けるように突進した。
フィールドを2バウンドしてエレブーが倒れる。これで二体戦闘不能だ。

「どういうことだ……めいそうは防いだ筈………頼むぜ、レアコイル!」
「キミは…昨日の」
「That's right!!レアコイル、ラスターカノン!」
「エイド、めいそう」

ラスターカノンは鋼の技。受けきってやろうじゃん。
レアコイルが発射の準備に入った所でエイドも再びめいそうを始める。タブンネって種族は元々そんなに能力値が高くない。恐らくかなり開いているレベル差と体力差、めいそうがあって初めて成立する作戦だ。

「(………肉を切らせて)」

骨を断つ。

「エイド、解ってるね」
「キュッ」
「ふん、何かしようってか?そんなにこいつのラスターカノンは甘くないぜッ!!」

達磨の言葉と共にレアコイルが光の束を発射する。エイドは回避動作をせずに足を踏ん張り、ギッとレアコイルを睨み付けた。
次の瞬間、エイドに光が命中し爆発音と共に土煙が舞った。

「レアコイル、油断すんな……続けてチャージビ」
「連射なんてさせるわけないだろ」

土埃の中にちらりと赤が見えて、俺は目を煌めかせた。

「鋼には、まぁ単純に炎だよな」
「かえんほうしゃなら効かないぜ?雨の中で遠距離攻撃なんて………」
「知ってるよ。こちとら舐めんな」

さあ、エイド。
ぶ っ ぱ な せ !!

「エイド、オーバーヒート」
「っ!?!?そんなのまで覚えてんのかよ!!」
「キュウゥッ!!!」

覚えてんだよ。ざまぁみろ。
土埃のせいでエイドの位置がつかめないレアコイルはキョロキョロと辺りを見回している。鮮やかな紅蓮に包まれたエイドはそんな相手を気にすること無く、レアコイルに突っ込んだ。

「レアコイル!」
「ギッ、ギィィィ………」
「エイド、あと一体だ。行けるか?」
「キューッ」
「良い返事だ」

体力は半分ちょいってところかな。
エイドは気合いを入れ直すように体を揺らし、レアコイルがボールに入っていくのをじっと見つめていた。

「……お疲れさん、レアコイル。さぁ、勝負はここからだぜ!行ってこいマルマイン!」
「……モンスターボールみたいだね」
「ん?初めてか?」
「レアコイル以外は全部初めて見たよ」

出てきたのはモンスターボールを逆さにしたようなポケモンだった。土煙が収まり、雨も止んでくる。残った水分できらきらと水蒸気が煌めきながらも、戦意と共に溢れる電流と火花で地面はぱちぱちと軽くはぜた。

「エイド、行くよ」
「キュウッ」
「させねーよ……マルマイン、スピードスター!!」
「ジィーッ!」
「、」

達磨がマルマインに攻撃を指示した瞬間、マルマインが一瞬消えたように見えた。

「キュウッ!?」
「エイド、避けるな向かい撃て!ひみつのちから!」
「ほう、良い判断だ!」

相手の予想以上の素早さに困惑したエイドを一喝し、攻撃を相殺する。いくら素早くとも攻撃の速度は変わらない。………でも、オーバーヒートのせいで技の威力が下がってる。あまり強い技は逸らせそうに無いな。
俺の指示を聞いた達磨が感心したように笑ったのが解って心底ムカつく。死ね筋肉達磨!

「チッ、速ぇな………!」
「そりゃな!マルマインって種族は元々速い……俺のマルマインは、尚更だ!!続けて十万ボルト!!」
「エイド」

それなら。
こちらにも考えがある。

俺は十万ボルトを避けたエイドを呼び、エイドはちらりと俺を振り返る。

コクリと頷いたのは、同時だった。

「よそ見してる暇あんのか!?」
「黙れ達磨。エイド…………
―――――トリックルーム!」
「キュウゥゥウッ!」

エイドは俺の言葉に待ってましたとばかりに両手を上げた。ぐにゃりと視界が歪み、青に格子の入った奇妙な空間が出来上がる。達磨は俺の指示に驚いたのか目を見開いていた。まあそれもたった数秒で、俺は達磨の口がほうでん、と動くのを見た。

「(…………残念)」

届かねえよ。

マルマインが全力でほうでんしようとしているのは目に見えて解る。時間を置く毎にどんどん電気の層が厚くなってるから。
ただ、それがエイドに届く前に。

「エイド、とっておき」
「チッ、避けろマルマイ―――」
「避けさせねえよ」


持ち前のスピードで回避しようとしたマルマインは、トリックルームによってそれ以上の速さで追撃したエイドの攻撃を避けきれなかった。
フィールドに粉塵が舞うのも構わず、エイドは続けて確実に目標へめざめるパワーを叩き込む。達磨が何やら指示を飛ばしているが、正直マルマインは攻撃のせいでふらついている。達磨の指示に従えるようになるまであと数秒かかるだろう。

―――なら、ここで決める。

「エイド、最後だ耐えろ!
――――ワイルドボルト!!」
「キュウゥゥウッ!」
「マルマイン!!!」


高らかに宣言された王手。







逃げ道は、用意してない。







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