蒼狼アルミナイズ | ナノ

黄昏の中交わし合った






『ブラックー!!見て見てぇ、ムンちゃんが進化したの!』
『ふーん、よかったじゃん。ムシャーナだっけ』
『そう!技の威力も上がったんだよ………ムンちゃん、ねんりき!』
『……っ?ベル!?降ろせ!』
『あわわわわ!ム、ムンちゃん、ブラック下ろしたげてぇ!』
『むー!』
『高度上がってんじゃねーか死ねバカ!』





「――――――――――っ!!!」
「随分な目覚めだな、アンラッキーボーイ」


がばあっ!と勢い良く起き上がった俺に、誰かが声をかける。待ってくれ俺はベルとムシャーナを一発ずつ殴らないと気が済ま………………

………あれ。

改めて自分の周りをきょろきょろと見回してみる。俺は何故かベッドに寝かされてて、鞄はすぐ側のテーブル。ポケモン達は腰。ベッドの隣の椅子に座っている体格の良いおっさ………男は金髪の軍人みたいな奴だった。


「俺、何が………」


首を捻ろうとすると痛みが奔る。恐る恐る頭に触れると、どうやら湿布か何かが張ってあった。


「悪いな!お前、俺のレアコイルと衝突したんだよ。こいつ混乱しててな……ほら、謝れ」


軍人(仮)がそう言うと彼の背中の影から磁石みたいなポケモンが出てくる。目を悲しげにさせて金属音みたいな鳴き声で謝られたので、俺はそいつを撫でるより他無かった。ここで文句連ねたらどんだけ心狭いんだって話になるし。


「……あんまり気に病まなくて良いよ…つーかうじうじするな鬱陶しい。混乱状態じゃよく解ってなかったんでしょ」
「ギィィィイ………」
「ほんと悪かったな―――にしても坊主、旅の途中か?ここらじゃ見ない顔だ」
「ああ……イッシュから今日の昼前にここについたばっかだけど」
「そうか!俺はマチス。このクチバのジムリーダーやってんだ。坊主、名前は?」
「………ゼロ」


……ジムリーダーかよ。
ひくりと頬をひきつらせ、心の中で盛大に突っ込んだ。危ねえ、本名で自己紹介するとこだった。


「坊主はジムに挑戦するのか?」
「明日行こうと思ってる」
「じゃあ楽しみにしてるぜ。言っとくが、手加減なんてしねーからな!!」
「したら物理的にも精神的にもキミのメンツ潰してあげるよ」


豪快に笑う軍人……じゃない、マチス。
ジム戦………まあエイドが楽しめればそれで良いんだけど、ジムトレーナーっていうのは街それぞれに規定レベルがある。そのレベルに達しないポケモンしか使わないとかいうルールだ。
エイドの敵になるかどうか。
爽やかに聞いたところ、最終ジム――イッシュでいうソウリュウシティのジムだ――は、トキワシティのトキワジム。クチバは中堅どころらしい。
まあ良いトレーナーっていうのは使うポケモンのレベルに左右されずに目を見張る戦術を見せてくれるからそんなに気にしないけど。それすら微妙ならジムリーダーなんて辞めればいい。


「クチバは電気タイプのジムだったっけ」
「ああ!俺の手持ちは皆ビリビリだぜ?」
「ビリビリって……」


アホか頭弱いのかこの筋肉達磨。まあ電気タイプならジム全体が電気で……いや、ライモンジムはそうでもなかったっけ。

それよりさっきから俺の興味を引くのは、達磨が軍服か何かのように着こなすごついデザインのタクティカルベストだ。………やっぱ軍人か何かじゃないのかな、腰に然り気無く吊る下げられたナイフはアウトドアで使うようなサバイバルナイフじゃなくて歴としたタガーナイフだ。タガーも今度おっさんに見繕って貰おうか……いや、話がそれた。
それに加え、体の鍛えられ具合が尋常じゃない。えーと、要するに俺が言いたいのは。


こいつ、一般人か?


「(ロケット団だったりしてくれないかな……いや、だとしても幹部でもないとボスの居場所なんて知らないよな……)」
「どうした?坊主」
「………いや?それより名前教えたんだから坊主ってのやめてよ」
「坊主は坊主だ」
「キミは舌抉られたいの」


ぴくりと眉をあげる。
そんな俺の反応も何処吹く風、達磨はちらちらと俺の腰に目をやって―――――言い方が変態臭い。訂正、腰の辺りのボールを気にしている様だった。興味でもあるのかな。

そう意図を汲んだ空気が読める素敵な俺は(読んでも意図を汲まない事の方が多いからこれは本当に珍しい)室内でも大丈夫な子達――さっきのバトルでボックスから出したジルとダンデ、ユピテルだ――のボールを取り出した。


「見る?」
「お、良いのか?」
「まあ。……さ、出といでよ」


ポンっという景気の良い音を立ててボールの外に飛び出した俺のポケモン達に達磨はヒュウ、と口を鳴らした。


「右からランクルスのジル。こっちがメラルバのダンデ、エルフーンのユピテル………ああ、エイドも出ておいで。タブンネのエイドだ」
「意外に可愛いの多いな」
「俺がこいつらを持ってるのが不満かそうか、心置きなく死ね」
「いーや?別に」


にやにやと笑うバカにエルボーを食らわせたい。可愛くて何が悪い、割とイケるんだよ俺の女装。
どう考えても検討違いなことを思いながら筋肉達磨がしげしげとポケモンを眺めるのを見守る。エイドと達磨が見つめ合ってるのは中々愉快な光景だった。


「お前、ラッキーとかハピナスみてえだな」
「きゅうー?」
「ラッキーとハピナスって何」
「こっちでポケセンを手伝ってるポケモンだよ。こんな感じにピンクで……」
「……どこにでもいるもんだね。タブンネはイッシュだとセンターの手伝いをしてるポケモンだ」


成程、ジョーイさんの隣にいたあの丸いポケモンはラッキーかハピナスなのか。………いや、うちのエイドは思いっきり前線要員だけど。


「ポケセン………そういや坊主、お前今日の宿取ったのか?割と良い時間だけどよ」
「は?いや、取ったけど……」


『良い時間』?
爽やかを送り出したのは昼過ぎだった筈じゃ………


「達磨、今何時」
「達磨!!??………あぁ、時間………」


達磨は呼び名に突っ込みたそうな顔をしていたが、左手首に巻いた時計を見て俺に言った。





「6時を回ったとこだな」
「俺どんだけ寝てたんだよ!!」


思わず声を荒あげた。


どうりでさっきからダンデの視線が痛い訳だ(このメラルバ、小さい頃から食い意地張ってる。うぜえメタボになったら二軍からも落とす)………いつもなら夕飯食ってるしな、今の時間。


「………そろそろ帰る。ベッドどーも」
「おう。明日楽しみにしてるぜ坊主!」


ベッドから降りるとサイドテーブルに置かれてたバッグを達磨が差し出してくる。受け取ってポケモンをボールに戻してドアを開け、




固まった。




「………ねえ、達磨」
「だからその達磨って何だよ………どうした?」
「ここ……………ジムだったの」
「言ってなかったか?」
「言ってねえよてめえ畜生」



じわりと殺気が滲んだ。思ったよりドスの効いた声が出て、達磨が身構えたのが見えてちょっと楽しい。


「………ま、良いとするか。じゃ、また明日来るから」
「お、おう」


にやりと詐欺師がするような笑みを浮かべて、俺はジムの装置を逆走し始めた。途中でジムのトレーナー達が事情を知ってるのか大丈夫か、と声を掛けてくる野次馬うぜえその2。それに社交辞令で大丈夫と返しながら入り口まで到達し、自動ドアをくぐった。

辺りはすっかり夕焼け色で、街の看板の謳い文句に負けない風情を醸し出している。


「………調整、しようと思ってたんだけどな………」


過ぎたことを考えても仕方ない。んんっと背伸びをして、何故か生えている木を居合い切りするのも面倒になって受け取ったグルカナイフで一刀両断。俺はオレンジ色の街の中をセンターに向かって歩き出した。



「…………久々だな、このぞくぞくする感じ……」



ジム戦前の、高揚感。
胸に手を当ててどくどくと脈打つ心臓の音を感じ、俺は薄く微笑んだ。











あぁ、きっと楽しくなる。









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