蒼狼アルミナイズ | ナノ

初めましてカントー





ここは クチバシティ

ゆうやけいろの みなとまち


そんな謳い文句が書かれた街の入り口のボードを眺めてから、俺は改めてカントーの海の入り口、クチバシティを一望した。


「何かホドモエみたいな感じかな」


新調した上着を整え、鞄を背負い直してからきょろきょろと辺りを見回す。すぐポケモンセンターが見つかったので部屋だけ取ってしまうことにした。

……………それにしても、ポケモンセンターがやけに小さい。この街だけかな………そんな感想を抱きながら潮の臭いがする街を歩いていると青い屋根のショップが見えた。成程、フレンドリィショップとポケモンセンターが分かれてるから小さいのか。

後で行ってみるかと一人ごち、赤い屋根のセンターに向かった。





「部屋空いてる?」
「ええ、大丈夫ですよ。あら……ジャローダ?珍しいわね。イッシュの方?」
「解るんだ」
「ふふ、このクチバは港街だもの。他の地方のポケモンも少しは知ってるわ」


美人で博識だなんて、素敵なジョーイさんだ。

センターに着いて少しだけジョーイさんと会話した後、部屋をとってセンターの中庭に出た。沢山のトレーナーとポケモン。イッシュのポケモンも割と居たので彼女の言っていたことは正しいらしかった。


「………キミらも出る?」


ホルダーから3つボールを取ってベンチに並べる。
俺がベンチに座ると同時に2つの光が飛び出した。


「お嬢、エイド。長旅お疲れ―――――シュラウドもね」


かたかたと一つだけボールが揺れた。流石にシュラウドもといレシラムをここで出す訳にはいかない。俺も空気は読む。

キュイッとお嬢が機嫌良さげに鳴いた。その側にちょこんと座ったエイドも楽しげだ。


「マサラまで長いな………」


それまでに手持ちは増えるだろうか。水タイプは移動を考えても欲しいし……鋼も捨てがたい。

マサラタウンまでの道程は、六番どうろを進んでヤマブキシティ。その後ハナダ方面から行くか、若しくはタマムシの方からサイクリングロードなるものを下りてグレンから波乗り。
………恐ろしく長い。溜め息が出そうだ……っていうか出る。早速だけどイッシュに帰って良いかな……。

いっそマサラに下ろして貰いたかったんだけど、カントーはイッシュよりも緑豊かな場所だ。小型とはいえ飛行機が降りられる場所が限られているため、空き地のあったクチバが最適だった。

データの配達は後回しになるな。つーか後回しにする。決めた。

お嬢がエイドを背中に乗せてくるくる回るのを見ながら溜め息をつくと、視界の隅にムンナが見えて――――――


……………は?


「っ!?!?」
「ムー!!!」


べしっ!

いきなりこちらに突っ込んできた(凄まじいスピードだ)ムンナはそんな音を立てて俺の顔に衝突した。


「うっわ!こらムンナ!悪いな、うちのムンナが………」
「………今日は厄日か、そうか」


めり込む勢いのムンナを顔から離し、慌てて此方に駆け寄ってきた奴に視線を向けた。エリートトレーナーの服装。黒髪の男だ。


「あれ、ジャローダにタブンネってことは、君もイッシュ出身?…………俺はカイト。見ての通りエリートトレーナーやってる。君は?」
「ブラ………………ゼロ。」


本名を言いかけて咄嗟に嘘をついた。
二年前の一件やチャンピオンだった時期を通して、俺の名前はトレーナーの世界では割と知られている。イッシュのトレーナーなんてなおさらだ。

………何か言われればそれだけでうぜーし目立つとかかったるい。人間は煩い。第一俺は一介のトレーナーとしてここにいるんだから…………いや、理由としてはリュックに入ってる厄介な手紙が八割だからとりあえずギルは死ね。


「ゼロか。………なあ、良かったらで良いんだがバトルしないか?久々にイッシュのポケモンとバトルしたいんだ」
「………良いけど。3vs3とかで」
「オーケー!じゃ、この先の広場にしよう」
「……メンバー揃えてくるから先行ってて」
「勿論。じゃあ先行ってるよ」


エリートトレーナー……めんどいから爽やかで良いか。そんな感じだし……に一度断ってからセンターに戻ってパソコンを繋げる。イッシュのアカウントはそのまま使えるらしいので俺はボックス一つしか使ってない自分のアカウントを開いた。


「戦い納めといこうか。………ユピテル、ダンデ、ジル」


手持ちの空きの場所に三体追加。のんびり中庭に歩いて爽やかの方に向かった。


「待たせた」
「よし!じゃあ始めよう。俺はソウリュウシティのカイト!」


ある程度の距離を取ると、側にいた野次馬1が審判を申し出たので爽やかが承諾する。
爽やかの正式な名乗りに応えた。


「俺は…………

ブラックシティのゼロ」


まあ間違っちゃいないよな、と我ながらでっち上げプロフィールに納得。



「頼むぞゴチルゼル!」
「さあ、行っといでよ………ユピテル!」


ゴチルゼルとユピテル―――エルフーンが火花を散らした。






(俺を本気に、)






***



「強いな、ゼロ!凄く楽しかった」
「爽や……キミもまあまあじゃない」


チェレンの方が圧倒的に手応えあるけど、まあ比べるのが可哀想か。
爽やかはゴチルゼル・バッフロン・ムーランドで挑んできた。対する俺はダンデ(メラルバ)にユピテル(エルフーン)、ジル(ランクルス)。結局ユピテル一匹で事が済んでしまったので残りの二匹が拗ねてるけど、気にしてなんていられない。
バトルは俺の勝ちで、見慣れないポケモンを珍しく思ったのか終わった頃には周りに人だかりが出来ていた。野次馬うぜえくたばれ失せろ爆発しろ。


「ゼロはこっちでジム巡りするつもり?」


ポケモンをボールに戻しながら聞いてくる爽やかに、何で言わなきゃなんねえんだと思いつつも一応頷く。


「っそ。キミもジム巡り?」
「ああ。マチス………ここのジムリーダーには勝ったから、今日出発するつもりなんだ。グレン辺りにでも行ってみようかと思ってるんだけど」
「ふーん。じゃあまたどっかで会うかもね」
「次は負けないよ!」


意欲を見せる爽やかに、俺は以前の自分とかつてチャンピオンだった頃の挑戦者を見た。


(あの頃は、単純に強さが嬉しかったんだけど。)


頂点の停滞と孤独を知って、俺は。


……うじうじ考える俺とか気色悪ぃ、死ね。遠くなった意識を首を振って今へ戻し、爽やかと握手してポケギアの番号を交換した。
その後は爽やかの出発予定時間までセンターで話を聞かされ辟易し、ムーランドを撫でながら(もっふもふだ)交流。どうやらシャガのおっさんの血縁者らしかった。世間って狭い。
そして同時に、ハナダからマサラへは行けないことが発覚した。どうやらハナダとニビの間にあるオツキミ山はニビからの一方通行………そんな馬鹿な。
一方トキワへはクチバの東にあるディグダの穴とかいう洞窟から行けるらしかった。謀らずもマサラへはそちらの方が近いらしいので助かったと言えば助かったんだけど。



「今日はありがとう。久々にイッシュの人間に会えて楽しかった」
「そう。」


日が傾いてきた頃に港の方へ歩く。

爽やかはグレンに一度行ったことがあり、そらをとぶで向かうらしかった。ピジョット(というらしい。初めて見る鳥ポケモンだ)を出して俺に笑いかけた。


「困ったことがあったら連絡くれよ。出来る限り力になるから」


じゃあロケット団のボスの居場所を知らないかな。


そう言いたくなったが鉄壁ポーカーフェイスで何とか切り抜ける。ギルバート死ね。奴に殺意が沸くのは本日二回目だった。


ピジョットに乗って小さくなっていく爽やかをぼーっと見つめていると、何やら周りが騒がしくなった。まあ俺には関係ない。
明日はジムに挑戦しに行こうか。エイドのコンディションは問題なさそうだし、カントーのレベルを測るのにはもってこいだろう。

そんなよしなし事を考えていたのが悪かったのか明らかに焦ったようにガタガタ揺れているボールホルダーに気付かなかったのが悪かったのか(多分両方かな)、俺は結局最後まで自分の身の危険を察せず―――――





「Oh!そこのガキ、危ねぇ!」
「ふむ…………は?俺?」



思考から浮かび上がった俺の耳に届いた男の声。
思わず振り返った瞬間、目の前は銀灰色でいっぱいで


ガンッ!!!!



「(……………間違いねえ、厄日だ…………!!!)」




頭にとんでもない痛みと衝撃がはしり、俺は頭の上に星を散らせながら意識を飛ばした。








(気絶させちまった…)
(リーダーレアコイル居ました?)
(おう。このガキジムに運ぶぞ)

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