寄りかかった壁がひやりと冷たかった。同じぐらい冷ややかな表情を浮かべたクダリはその肩にわたくしの片足を乗せ、無理な体勢をとらせることを厭わない。形のいい掌が淫らな音を立ててそれを扱くものだから、まるで直視できなかった。ゾッとするほど機械的で、ねちっこい愛撫だ。
「きみねえ、そんなに盛ってばかりでどうするんだい。しかも現状を見たまえよ。ぼくらはまだ職場にいるし、一端の大人としてはとてもじゃないが考えられない。時間だって朝の十時を過ぎたところだ」
「あっあぁっ、すみま、せ」
「我らは誇り高き人間である、なんて、言うつもりはないけれど」
淡々と話す唇とは裏腹に、その掌は着実にわたくしを追い詰めてくる。密かに苛立ちを隠した指先が嬲る。根元を強く擦りあげ、親指がグリグリと亀頭を刺激するのだ。もとから感じやすい性質を考えなくたって、気持ちよくて仕様がなかった。
部屋の隅に座り、腰が痛くなるほど片足を持ち上げられて、もう一方の足は不格好に投げ出しているこの現状のことを言っているわけではないことは分かるが、そんなものは仕方がない。愛しい弟に恥じるべき箇所の全てを見られているかと思うと、気がおかしくなりそうなほどの快感が襲った。扱かれる度に先走りが溢れ、彼の美しい手が汚れていく様は震えるほど気持ちが良かった。
「だって、あなた、昨日、シてくれなかった、でしょう」
「一日くらい我慢しておくれよ。それに昨日は本社でのプレゼンが長引いて、とてもじゃないが時間なかっただろ。きみだって帰ったら寝てたじゃないか」
「ま、待って、いましたよ、途中まで、んんっ」
「何にせよこれから仕事だし、ぼくのはあげられないよ」
「えっ、い、いやです!」
クダリの発言に思わず身を起こそうとしたものの、また体重をかけられ元に戻る。当然セックスするものだと思っていたので、まるで冷や水をあびたような気分だった。昨日からの期待で疼いている体はとても少し扱いておさまるようには思えなかった。
「そんなこと言っても、ぼくもきみもスキンなんか持ってないだろう」
「でもっ、おねがいです、あっ、どうか、」
「困ったなあ」
眉を顰め、先走りにまみれた指で唇を撫でられる。そうして撫でていた指が中へねじ込まれると、大人しくその指に舌を這わせた。何本かの指が口の中を蹂躙していく。内部構造を調べるようにバラバラと動くそれに、触れられていないはずの後ろが反応する。そしてそれを確認したのか、目の前の弟は酷く呆れたような表情をしてみせた。その様子にこそ興奮するのだ、と言ったなら、どんな反応を示してくれるだろう。いつだって優しく紳士的な弟に、滅茶苦茶に犯されたい。触れられていない性器から先走りがだらだらと溢れた。
「…わかった、きみはいれられたい、ぼくはいれられない。なら、こうしよう」
「んっ!んうううっ!」
突如として後ろに挿入されたのはローションにまみれた三本のマジックペンだった。デスクのペン立てから乱暴に拝借したクダリはそのマジックペンを突っ込むと、中を掻き混ぜるようにぐちゅぐちゅと音を立ててゆっくりと動かす。待ちに待った後ろへの刺激に全身が身悶えた。口の中から指が出ていくと途端に激しく動かされ、それに合わせて腰も揺れる。
「あっ!あっ!クダリ、クダリィ!」
「三本じゃ間に合わないかな?どう、兄さん」
「もっと、もっとくださいまし!」
「今度からは、毎日ディルドでも持ち歩いてくれると助かるよ」
「あっあぁっあっ」
涎を垂らしながらもビクビクと体を跳ねさせるわたくしに、それでも付き合ってくれる彼はなんて出来た弟なのだろう。そんな彼の手によって動かされるマジックペンに感じて、遂には射精すると、ちょうどよくティッシュを用意してくれていた彼の掌の内に収まった。ぼうっとする思考の中、困ったように笑う彼を見つめる。
「兄さんのせいだよ」
「はい…?」
「仕事が終わったら、もうやめてって言うくらい愛してあげるからね」
「それは…楽しみです」
「ふふふ、困ったなあ」
優しげな目元にキスをすると、頭を撫でられる。そんな彼にドキドキとする自分はおかしいのだろうか、ああ。何より愛しい弟よ。
腰振ってんじゃねえよ












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