もう何時間こうしていただろうか、青臭いにおいと息遣いに満たされた狭い一角、手首を一纏めにしたベルトが軋んだのは、まだ日も沈まない頃だった。夕陽に照らされた兄さんがあられもない姿になってしまっているのには理由があったが、生憎とこれはぼくのせいではないのだから、勘違いはしてほしくない。そもそもの原因は兄さんの性的嗜好に問題があるだけだ。ベッドの背にもたれさせた兄さんの手首をベルトで後ろに縛り、口には猿轡を嵌めた。ダラダラと溢れる唾液を恥じることさえ出来ず、乳首と亀頭に固定させたバイブの振動に感じきっているその姿にいつものプライドと威厳は見受けられない。肋の浮いた腹部をビクビクと揺らしながらも人間としての言葉を発することなくただ「うう」だの「ああ」だのと喘ぐ兄さんはその姿に、どこか虚無感を与えた。恐ろしい背徳に吐き気がするものの、雪のように白い四肢を剥き出しにした姿は、息を飲むほど淫猥で。
碌に目を通すこともせず手にしていた報告書の最後の一枚を放り投げ、溜め息をつくとベッドサイドに腰掛ける。しかし僅かなその衝撃にさえ体を反応させた兄さんがこちらを睨んだ。
「ぐ、うっ、んぅ、んっ」
「ああごめんね、そう睨まないでよ、気持ちいいでしょ?」
にこりと笑って尋ねれば是非もないと目を伏せるその姿は、なんともいやらしく、それでいて品のある不思議なものだった。兄さんはどこか官能的だ。それはぼくが兄さんを愛しているという贔屓目で見なくともそうなのだ。この人はどこか、奥床しいところがある。本人は至ってそんなことはないのだけれど。痛々しいほど赤く勃起した乳首をバイブの上からべちゃべちゃになるほど舐めまわせば身をよじるその反応に、ついぼくまで熱を上げてしまいそうだった。いやだ、それじゃあぼくが、この色情魔と同じみたいじゃないか。そんなのは御免だ。しかし気持ち良さげに首を振っている兄さんは、ぼくの愛しているひとだ。その人のこんな姿を見て反応しない男がいるだろうか。ごくりと喉を鳴らして彼を見下ろせば、哀れなマゾッホが天を睨むばかりだった。

兄、ノボリは大変なマゾヒストである。ぼくがそれに気付いたのは随分と遅く、つい最近だったのだが、それはもう目を背けたくなるほどの性的嗜好である。何故今までに気が付かなかったのかと不思議なほどだ。断っておくがぼくはノーマルだし、セックスは優しく愛し合うものが好きだ。勿論一般的なコスチュームプレイなどは範疇内だが、いくらなんでも酷いマゾヒストを満足させるセックスなんてのは試したことがない。しかし愛する兄がいつも消化不良なんてのは可哀想だし、これでもしも浮気などされたらと思うと気が気でない。つまり、ぼくがサディストになるしか、現状を打ち砕く術はなかった。それからと言うものぼくはサディズムを徹底し、兄さんも快くそれを受け入れた。それどころか嘗ては想像できないような、自分からぼくを誘うような真似までして見せた。これで良いんだ、兄さんが離れていくくらいなら、いっそ自分がそうだと信じてしまうほうが。

覆い被さり、乳首に押し付けていたバイブを取り外すと痛いくらいの力で摘み、ついでに猿轡も外してしまった。ぼくとしてはキスの一つもしたいのだけれど、そんなのはまだ早いらしい。性器だけになったバイブのレベルを小から中に引き上げ、相変わらず乳首のみを責め立てる。
「あっあぁ!い、たぁ、や、クダリ、っ!」
「嘘はいけないなぁ兄さん…腰が浮いてるよ?」
「そ、なこと、ぁあっ!あっ!」
乳首に強く吸い付き、犬歯で噛んでやると胸を突きだして強請られ、それに応えるべく更に責め立てる。絶え間なく喘ぎ続けるその様子を窺いながらもそろりと手を伸ばし性器にあてがい、手早くバイブを外すと扱き始めたが、
「あっああああっ!ひぃ、イっちゃ、イっちゃいます!んっ!ああっ!」
「…え、あ、ちょっと待ってよ、しょうがないな君は」
「ふあっ、ご、めなさ、あんっ!あああ!」
ビクビクと体を仰け反らせたかと思うと、なんと兄さんは呆気なく達してしまった。しまった、焦らしすぎたのか、まさか三四回扱いただけでイってしまうとは。呆れたように見下しながらも、精液でグチャグチャになった手袋を外し、投げ捨てる。いけないいけない。これも決まったプレイとして、イかせたわけですって顔をしてやらないと。見下し、舌打ちをして、ネクタイを緩める。そんなぼくを眺めながらも期待しているかのように紅潮した顔をにやけさせ舌なめずりをした兄さんは、なんというか、変態みたいだ。
「ああ、ぼくの手袋グチャグチャにしちゃってさ、気持ちよかった?変態」
「あんっ…も、申し訳、ございませ…」
「どうせなら撮っとけばよかったね、ちょっと扱いただけでイっちゃう淫乱ですって、みんなに見せてあげようか」
「いやっ…いやでございます…っ」
「そしたらノボリ、どうしようもないマゾだってバレちゃうね、どこかへ連れ込まれて無理やりしゃぶらされちゃうかもよ、あれ、きみはそんなの嬉しくなっちゃうかな?」
「んっ…いや、ぁ…」
嫌、というものの、それを期待しているような兄さんに頭が痛くなった。何せこんな話をしているだけで萎えたものを再び勃起させてしまうような人だ。…冗談、そんなことをしてはぼくまで変態の仲間入りだ。ごそりとポケットを漁り、指先を掠めたものをつまみ出す。そうして兄さんに見せ付けるようにすると、びくりと肩を揺らした。所謂綿棒をどうするか、分からないわけもないだろう。
「すぐイっちゃう穴には、蓋しとかなきゃ、ね?兄さん」
「ひ、や、いやっ、あぁああっ!」
ヒクヒクと収縮して見せる尿道に先をあてがえば何もせずともそれを欲しがるようだった。先走りと精液にまみれたせいでぬるぬると滑るそこが煩わしい。ああ面倒だと舌打ちをするとまた兄さんが喘いだ。ああもう、可愛い可愛い兄さん、どうかあなたが普通の性的嗜好を持ちますように。
受胎








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