目を覚ませば、ギシギシと悲鳴をあげる体の節々にこちらが悲鳴をあげそうになった。ギャアッと叫んで転がってしまいたいが、それを阻止したのはわたくしよりも些か太い、弟の腕だ。しっかりと抱き締められている現状に驚きながらも、間近に迫ったその顔を眺める。造形としては全く同じである筈なのに、表情は寝ていても異なるのだから恐ろしい。眉間に皺の寄った寝顔はそれこそ日頃のストレスの集約のようであった。連日の過酷な労働環境は睡眠と怠惰を奪い去る。こうしてぼんやりと目を覚ますことさえいつ以来だか分からなかった。煙草臭い髪でさえ今は拒否する気になれなかったのは、わたくしとて日毎の疲労で心身共に疲れ切っていたからだった。「…クダリ」呟けど返事は帰ってきそうにもない。規則正しい呼吸を繰り返す優秀な器官のことを考えながらもそっと手を頬に触れさせた。同じ色をした肌が交わる。健康的な肉付きをした頬は心地がよく、素晴らしいかたちをしていた。カーテンの隙間から朝日がさしている。視界の端で捉えながらも、何もすることはなかった。恐ろしいほど静かな朝が過ぎていっていた。気が付けば今が何時であるのかもよく分からず
、次第に透明性を増した頭は鈍痛を訴える。昨日はどれくらい飲んだのか、それすらも曖昧であり、考えるだけ頭は痛む。何もかもが無駄のようだった。瞼を伏せ、深く呼吸をする。青臭さを感じないのはわたくしが意識を手放したのちにクダリが後処理をしてくれたからだろうか、申し訳ないことをしたものだ。ぼんやりと考え再び名前を呼べば、意外なことにも体を身動ぎさせ、クダリはゆっくりと目を開けた。薄い瞼が何度か痙攣した後に同じ色をしたものがわたくしを映した。
「…なんだ、起きてたのノボリ、起こしてくれてよかったのになあ」
「いえとんでもない、あなたがこのように深く眠るのは珍しいですからね」
「体温が丁度良いんだ、ぼくは低体温症だからさ」
「そうでしたね、あなた偏食だからですよ、もう少しバランスを考えなさい」
「はは、昨日あれだけ泣いたのに起きたら説教なんて、君はタフだなあ」
「バカなことを言ってないでくださいまし、ほら腕を退かしてくださらないと、朝食を作れませんよ」
溜め息混じりにそう言うと右頬にゆっくりとキスをされた。それは性的な要素のまるでない兄弟としてのキスだ。未だに眠たげな顔をしているクダリは何度か瞬きを繰り返しているものの、唇をもごもごと動かしては左頬にまたゆっくりとキスをする。しかし今度は離れ際にべろりと舐められた。爬虫類のように薄く、低温の舌は心臓を跳ねさせた。
「…朝食はいいよ、ぼくは少しこうしていたいな」
「ずっとこうしていましたよ」
「目を覚ましてからもだよ…君とゆっくり過ごしたいんだ」
「たまの休みですし、もう少し有意義な…」
「いいんだよ、ぼくらどうせ、あまり若くないんだから、休みには休まないと」
そう言うと、今度は唇に吸い付かれ、その安堵を与えるような優しいキスに力が抜けていく。あまり若くないか、それもそうだ。思えばイベント事も達観することのほうが多くなった。
「ノボリ、少し痩せたね」
「そうでしょうか…あなたは少しだけふくよかになりましたね、腹部が」
「気にしているところを突くなあ…」
「一緒にジムに通いますか?」
「冗談よしてよ、喫煙者は運動が嫌いなんだ」
「ならば煙草もやめてしまえば良いのですよ」
「うむ、倫理的であり、素晴らしい返答だ」
流すようにして笑いながらもわたくしの髪を梳かしているクダリの指先が僅かに性欲を帯びたことがわかった。複雑な笑みを孕んだクダリの、ここ最近できた靨を撫でると擽ったそうに目を細められる。確かにほんの少し太ってはきたものの、わたくし達は外見上の差異を殆ど持たないものだからそこまで太ることもないだろう。遺伝子的にそうらしいが、こうも不健康に身を染めるクダリと健康に気を使うわたくしとが大して変わりのないのは些か悔しくもあるが、しかし太りに太られても困ってしまう。熊のように肥えた弟などまるで想像がつかないが。
「…ノボリ、ぼくが何を考えているか、分かるかい?」
「ええそうですね、あなたは本当に、仕方のない弟ですよ」
「君の弟だからね」
わたくしよりも分厚い唇が額にキスを残したかとおもうと、一層強く抱きしめられる。昨日の疲労の抜けない体はやはり痛んだが、
「それでも、目覚めたのがあなたの腕の中で良かった」
共鳴







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