頬にぬるついた感触が巡ったと思ったのも束の間に、生憎と馬鹿じゃないぼくの頭はすぐさまに事態を処理して結論を導き出した。ショリチュウ、カンガエチュウ、今し方ぼくの頬を舐めたハチクさんはなんともまあ、溜め息がでるほど色っぽく笑みを浮かべてこっちを見てる。ハチクさん、名前を呼ぶよりはやく口を塞がれれば蜂蜜の味と香りが広がった。思わず手にしていた出来立てのハニートーストが手から滑り落ちたけれど、そんな問題じゃない。いつだって凛としたきれいな瞳を柔らかく伏せてキスなんかされたら平常心でなんかいられなくってたまらなくって、驚いたあまり蜂蜜の瓶だとかバターナイフだとかを落としたのも言えなくて、口腔を這いずり犯すその舌に抵抗さえ出来なくなった。何が彼を刺激したのか知らない。ただ、いつだってこうして訳も分からないうちに浚われてしまう。声を出そうとしたって鼻にかかった喘ぎ声ばかりが抜けて、ああどうしよう情けない。
何分にも感じるキスが終わったころには、ぼくはもう息が荒いなんてもんじゃなくて、ぼくのなんだかハチクさんのなんだかわからないよだれなんか垂らしてるし、何よりすっかりソノ気になっている体を持て余して仕様がなかった。なんだって良い、はやく欲しい。
「ハチクさ、あ、」
「悪いが…ベッドまで待つつもりはない」
悪いなんて端からおもってなさそうな表情を浮かべてそう言ったハチクさんはぼくの手を引いたかとおもうと向かい合うかたちで胡座をかいた足の上に座らせた。重いからだとか遠慮する言葉も浮かばず、形の良い頭を抱いて再びキスをする。角度を変えて何回も、わざと音を立てるようにいやらしく。
「ん、ぅ、っ…!」
すっかりキスに陶酔していたぼくの呼吸を詰まらせたのは既に緩く勃起した性器を服の上からなぞってみせたハチクさんの手だった。服の上から撫でられてるだけなのにああとかううとか、そんなようなだらしない声が溢れる。キスがやんでもハチクさんの大きい手はただ服の上から弱い刺激を与えるばかりで、けどぼくはこんなのじゃ全然満足できそうになくて、もどかしい快楽に泣きそうになった。指先がそっと形をなぞらえるだけなんて。ああやだ、こんなの、やです。それでも感じきった熱を含んだ声色でそう伝えればぼくと同じように、珍しくも欲に浮いた色を見せるその瞳が射る。
「ならば…どうして欲しい?」
「あっ、はぁ…!ちょくせつ、んんっ、さわって、」
言い終わる前に、あれだけ撫でるばかりだった手が呆気なくぼくのベルトを外しスラックスを腿までずり下ろした。露わになったぼくのものをジッと見つめるハチクさんの姿に、急に気恥ずかしさがこみ上げる。
「やぁ…み、みないで、ください…!そんな…やです」
「嘘だな」
ぼくの必死の言い訳を呆気なく覆し、そう断言したハチクさんは本当に珍しくもこのセックスを楽しんでいるようだった。普段あれだけ淡白で、ぼくが誘わなければ殆どシてくれないのに、一体どうしたと言うのだろう。でもいやらしいハチクさんなんか滅多に見れるものじゃないからぼくとしては嬉しい…のだけど、何故かそれだけで終われないほど今日は意地悪だ。ハチクさんに見られてると思うだけで甘い快楽がぼくを襲い、性器からはとろりと先走りが垂れ始める。まだ服の上から触られたばかりなのに、きもちよくってたまらない。
「わたしに見られて、気持ち良いか?もうこんなにしてしまって…」
「あんっ…うぅ、ちがい…ます…!」
「もっと言うことがあるんじゃないか?…アーティ」
低く、扇情的な声で名を呼ばれ、よけいに感じてしまう。あれだけ優しいハチクさんがこんなふうにぼくをいじめてくれるなんて夢なんじゃないかと不安に思ったけれど、突然耳を舐められ何も考えられなくなってしまった。ぐちゅぐちゅと音を立てる、柔らかくも燃えるように熱い舌がまるで犯すように耳を愛撫する。直接響き渡る水音に気が触れそうな気さえして。
「あっ!あっ!や、もう、ハチクさんっ!」
「…きみは本当にいやらしいな」
「っどっちが、ですか、ぁ!」
囁かれる低温のせいで憎まれ口すらろくに叩けないのが恥ずかしいけれど、もうそんな余裕なんかなくて、なんだって良いからこのぐちゅぐちゅの性器にはやくさわってほしい。触られてもいないのにもう先走りで濡れそぼった性器をジッと見つめられ、またそれに感じてしまう…もうだめだ。ハチクさんの手を掴んで自らそこへ触れさせればほんの少しだけ触れたその刺激にも声を上げた。
「んあ、あっ!も、もっとぼくの、えっちなとこ、ああっ!みてさわって、いじめてくださいぃ!」
考えたわけでもなく口から出た言葉があまりにも酷いもので、引かれないかと心配したけれどすぐ近くにあるハチクさんは相変わらずえっちな顔してたから安心する。ようやく触れたハチクさんの手がゆっくりとぼくのを包んで扱きだすともうたまらなくって、腰がビクビクと震えひっきりなしに声をもらす。ぼくは自分自身喘ぎ声がなんだか高くてうるさくて、だらしがないから好きじゃないのだけと、ハチクさんはこんなぼくの声を可愛いと言ってくれる。今だってあまりに恥ずかしくて口を抑えていたぼくの手をゆっくりとはがされてしまった。おかげでまた声がもれて、恥ずかしくてたまらない。
「あっ!あぁっ、もう、イっちゃいます、んう!」
「今日は随分と早いな」
「ああっ!だって、そんなの…っ!んんっあっ!」
「君が淫乱だからだろう」
「そ、ですけど、ぉ」
ふふ、と笑ってそう言ったハチクさんにまた恥ずかしくなる。確かにぼくはインランだ。性的に、だらしがない。こういう行為に弱いしすぐに反応してしまう。声もうるさいしすぐイっちゃうし恥ずかしくされるのが気持ちいいし早くハチクさんのが欲しいし、ああでも、こんなぼくのこと、ハチクさんだって好きなくせに、ひどい。
「もっと…んあっ!もっと、いじめてよぉ…!」
「まあ待て」
知らず知らずのうちに突き出すようにしてしまっていた胸をべろりと舐められ、また腰が震えた。今乳首なんか舐められたらほんとうにイっちゃいそうで、イヤイヤと逃れようとしても掴まれ、ちゅうっと吸い付かれてしまった。
「あっ!ちくび、だめですよぉ、んあっ!きもちい…」
唾液を塗りたくられ、ぬるぬるになった乳首を尖らせた舌でつつかれたり甘く噛まれたり押しつぶされたりと、好き放題にされ身を捩る。その間にも限界は近付き、あまりの気持ちよさに涙が溢れた。性器を扱く手からは耳を塞ぎたくなるほどの淫猥な音が響き、それがまたぼくを追い詰める。気持ちいいところを同時に責められ、ぼくはもう限界だった。
「はあ、あぁっ、あんっ!や、ぼく、ほんとに、ぁあっだめですぅ!」
「ん、仕方ないな…アーティ、すこし腰を上げろ」
「え…?あ、ひぁっあっ!やだぁっハチクさんっ」
言われるがままに腰をあげると、おしりにひやりとぬるついたものが塗りたくられた。燃えるようにあつくなった体ではその感覚がダイレクトに伝わり過ぎて思わず身を引くが止められ、逃げることが許されない。大人しくそれを受け入れるしかないぼくはその冷えたぬるぬるとした液体にまみれたハチクさんの指がはやくぼくの中を犯さないかと、そればかりを考え腰を揺らした。



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