あの日の天使
初めて会った時から、気になっていた…
取り立てて美人でもなければ、頭がいいわけでもないし
…でも…
かわいい所はあって…
しばらく忘れていた俺の天使を思い出させた
天使?
それは…俺の初恋の…女…
それはじいさんに連れていかれたとある場所
その頃の俺にどこだと聞いたってわかるわけないし…
広い庭は子供心に火を点けるのに時間が掛からなく
あんまり外で遊ぶ事のない俺でもワクワクしたのを覚えてる
だけど、一人でいても全然面白くなく
普段、ウザイって思っていた宙や柳瀬や健兄がいない事の寂しさを感じたのも初めての事だったと思う
本当に広い庭で…
俺は迷子になった
□■□■□■□
「あれ?ここ、さっきもとおっ…」
じいちゃんに離れるなって言われたのに…
言いつけ守らなかったから、バチが当たったんだ…
ここには、リキくんもケン兄ちゃんもいない…
「…うう…」
涙が目一杯に溜まって溢れてしまいそうになった時…
『…だぁれ?』
後ろから聞こえたチビの声
泣いてるとこを見られたくなくて袖でゴシゴシと目をこすって
「おまえこそ、だれだ!」
心細さを隠して大きな声を出した
すぐそばの木の陰からジロジロと俺の事見てるし…
『あたしは美花…あなたは、だあれ?』
黒いまっすぐな髪の毛、真っ黒で大きな目
ジッと見られて思わず…
「ひるかわたくと…」
『んん?…くと?』
「た、く、と!おまえ、おれよりとししただろ!」
『…よく、わかんない…』
俺よりもチビで迷子か…
「しかたねーなー…ほら!」
チビに手を差し出すと、ニコッと笑って俺の手をギュッと握り締めてきた
このチビがいたから涙が溢れそうになった事も不安な気持ちもどっかにいっていた
変わりに芽生えたのは、俺がなんとかしないといけないという事
使命感に燃えてチビの手を引っ張る
でも、コイツは全然緊張感なんてなくて…
『ある〜ひ、もりのなか、くとーに、であった♪』
歌を歌いだして…
しかも、俺の名前は【くと】のままだし…
しんじらんねー…
「おい!おれのことは【おにいちゃん】とよべ!いやなら、【ごしゅじんさま】だ!」
『お…にいちゃ…ん…?』
不思議そうに小首を傾げて、だけどすぐにだらしなく力の抜けるような笑顔を向けて
『おおお!おにいちゃん!美花のおにいちゃん♪』
なんだか
妹ができたようでくすぐったくて恥ずかしかった
『あっ!こっちこっち!』
「お、おい!」
いきなり何かを見つけた様にグイグイと腕を引っ張られる
森を抜けたような所には、池があって太陽の光を反射してキラキラしていた
今まで光の遮られた森の中を歩いていたから
一際明るいその場所を一瞬天国かと錯覚してしまった
「…こ、こは?」
『ウフフ♪ここは美花とおじいちゃんのひみつのばしょ!…あ!』
手を離して両手で口を覆い、しまったという顔をする
『ね?おねがい…ひみつしゃべったこと、ないしょにしてて?』
あれだけ笑顔でご機嫌だったのに、急に泣きそうな顔になった
「だれにないしょにするんだよ…」
『…ん…おじいちゃん…』
「おまえ、じいちゃんすきなんだな…」
『!うん♪』
ほっぺを真っ赤にして目がどこかわからないくらいの笑顔
誰かを好きって言うだけでこんな笑顔になる…
親の愛情なんて知らない俺にとって、羨ましい以外のなにものでもない
反面、知らなくてもいいと思ってる
つーか…
俺が誰かの事、好きとか言うのってありえねーし…
誰かが、俺の事好きとか言う事もねーし…
『おにいちゃんはだれがすき?パパ?ママ?』
「っ!うっせー!!」
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