DEVIL | ナノ





運命のヒト




彼が私の名前を口ずさみ、肩を掴んだ



『はい…でも、貴方を知っているのに思い出せないんです…どうしても…』



彼の眼差しが和らいだかと思うと腕が私の背中を這い、ギュッと抱きしめられた

いきなりの出来事に戸惑ってしまい押しのけようと腕に力を込める
だけど、私なんかの力では押しのける事なんてできなくて…



「…も、離さへん…ワイの前からおらんようなる事も…許さん…」



体の奥から絞り出されるその声は、私の胸をなお一層締め付ける

頭では覚えていない彼の事を…
何故だか、私の指先が覚えている
不思議な感覚…

そして…



『…あ…』



私の頬に涙が零れ落ちた

彼からわずかに香った嗅いだ事のあるタバコの香り…
私は…やっぱり彼を知っている…
雨が降ると胸が締め付けられて涙が溢れてくる
その理由は…彼なんだと確信していた


















『マインドコントロール…ですか?』



彼の話している事は、おそらく人間の常識では考えられない話で…
だけど、そう思いつつも頭の奥でなんとなく理解している自分がいる事にも驚いた

一年前…
イオリの結婚式の10日前に私は天に召される運命だった
だけどそこでミスがあり、私は親友の結婚式に出てから天ぷらになると悪魔と契約をした
その10日の間に私は天使とは知らずに
蓮音は私が天ぷら対象者とは知らずに
惹かれあった…

だけど

お互いに気持ちは通い合ってると感じながらも
気持ちを通じ合わせても…
10日目の運命の日に、天ぷらに私はなった…はずだった…



「お前を悪魔審査に向かわせようとした晴人の犬がな、ワイのとこに来よってん…」



魂になった私が蓮音の宣言によって、魂を肉体に戻され…
悪魔たちと過ごした10日間も蓮音への想いも蓮音との記憶も書き換えられてしまった

そして…

私の魂を勝手に肉体へ戻した蓮音の記憶も書き換えられたと…



「蓮音!」



彼を呼ぶ声の主に私を背に隠す



「全部、思い出してんぞ!晴人!」



ハルヒ…ト…

聞き覚えのある名前にドキンと心音が跳ねる



「うん、わかってる…理が予知してたからね…」



穏やかなその声に蓮音の緊張していた背中が益々強ばるのがわかった
私の手をギュッと強く握って、蓮音が何かの決心を固めているようだった



「だけど、美花はまだ思い出してないでしょ?迎えに来たんだ、2人を…」

『あ…』



少しだけ顔を出して迎えに来たと言ったその人を見ると
昼間に見かけた人だった

私に気がつくと



「やっ♪元気そうだね、美花」



にっこりと笑って私に手を上げる
やっぱり、この人も私を知ってる
そして、私もこの人を知ってる…
ペコリと頭を下げると



「晴人、お前を信じてええんやな?」



少し低い蓮音の声



「ああ。俺を信じてくれ…。さ、ケロちゃん!お家に帰ろう♪」



晴人さんが声をかけると、ワンと吠えて黒い大きな犬が彼に付いていく
私の方を気にしながら…
あの犬も私を知っているみたい…



「美花、大丈夫や。ワイのそばから離れたらあかんで」



コクンと頷くと握っていた私の手を引いて、晴人さんの後を付いて行く


















「久しぶりだな、美花」

「美花さん、元気そうだね。でも、まだ思い出せてないみたい」

「美花ちゃん…」

「…やっぱ、オレのマインドコントロールは完璧…」



大きな家に連れてこられたけど、私、やっぱりここも知ってる
そして、私に次々と話しかけてくるこの人たちの事も…
知ってる…

思わず蓮音の服をギュッと握った

さっき聞いたばかりの蓮音の話は嘘ではないと、私の全部が言っている気がして怖くなった



「なんやねん、お前ら!晴人、どういうこっちゃ?わかるように説明してくれ!」

「あ、この天使はマインドコントロール解けてる…」

「ああ!お前の顔、その目忘れへんぞ!コイツの目ぇ見て、美花の事忘れよったんや」



彼が…私と蓮音の事をマインドコントロールをし…て…
メガネの向こう側にある漆黒の瞳には見覚えがあって…
私の体がガタガタと震え出す



『あっ…あぁっ…』



怖いという感情と思い出したいという感情が入り交じって心がバラバラになりそうになるのを必死でこらえていた

その場に立っていることができなくてペタンと座り込んだ時
私の体にフサフサの毛がペタペタと触れる



『あ…』









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