運命のヒト
顔を上げると、黒くて大きな犬のしっぽが私の体に触れていた
穏やかなその瞳に安心感を覚える
『えっと…ケロ…ちゃん?』
声をかけると、ワンと1度だけ吠えて私に体をあずけてきた
フワッとしたその感触は、とても懐かしくて…
『フフ♪』
相変わらず、ケロちゃんはフカフカで気持ちいいね…
あの時もこの毛並みに安心して乗ってたんだよ
ケロちゃんをギューッと抱きしめて
『私…ケロちゃんのおかげで怖くなかったよ…』
「…美花?」
蓮音の問いかけに彼を見ると…
胸の奥からどんどん気持ちが溢れてきてそれが涙となってボロボロとこぼれ落ちた
『…レ…』
上手く言葉にならなくて、ただ彼に向かって腕を伸ばした
出会ってすぐに恋に落ちて…
だけど彼は天使で私は数日後に天ぷらになる運命だった
いつも笑顔で彼の周りにはいつも笑顔が溢れていて
とても幸せな気持ちにさせてくれた
だけど、私が天ぷら対象者だと蓮音にわかってからは
彼から笑顔が消えた…
私も蓮音もとても苦しんだ数日間だった
今まで忘れていた事を昨日の事のように思い出していき、それと共に蓮音への気持ちもどんどん溢れて来る
伸ばした私の腕を蓮音が掴むと、ケロちゃんが私の腕の中からそっと離れた
目の前に蓮音の顔が近づいて…
「美花?もしかして…?」
『蓮音…好き…大好きなの…』
止まられない涙と
溢れてくる想いはたった一言で表せるほど単純ではなくて…
だけど
一番に伝えたい言葉はこれだった
それ以上言葉を綴ることのできなくなった私を蓮音が優しく抱きしめてくれる
「えらい告白やなぁ♪ な、これだけ応えてくれ…。全部、思い出したんか?」
蓮音の潤んだ瞳が揺れている
この気持ちを思い出せてよかったと、彼の目を見つめながら頷いた
「ケロちゃんのおかげで思い出せて良かったね♪美花」
「晴人…お前、わかっててここに連れてきたんか?」
「うん♪2人の記憶をしーちゃんに消してもらったのには理由がある」
「俺は予知が出来る。触れただけでその人の運命が見える。美花さんに触れた時、今のこの光景が見えた。志貴に記憶を消されてもちゃんと思い出す事ができるって…」
「ふん…。俺のマインドコントロールは完璧のはずなのに…」
「だから、大悪魔様に言ったんだ。美花は記憶を消して今まで通り生きる。天使の記憶も消す。そして美花の天ぷらを失敗した俺たちの処分は…」
「…ケロちゃんが最初に美花にぶつからなければ…10日後に美花を天ぷらにした時ちゃんと悪魔界に魂を届けていれば…ケロちゃんの失敗は使い魔である俺の責任だ」
晴人さん、理さん、翔さんたちの話を黙って聞いていると
蓮音の顔色が変わる
「…晴人…お前、まだ悪魔やんな…確か、美花の魂が一万人目で…」
そうだ
晴人さんは私の魂を天ぷらにしたら天使に戻れるって…
でも、1年経った今でも…晴人さんは悪魔…
「うん!だから言ったでしょ。ケロちゃんの失敗は飼い主である俺の責任だから…また振り出しに戻ったんだ!」
そう言う晴人さんは笑顔で…
「でもこの1年で結構な人数を天ぷらにしたよ〜♪なっ?ケロちゃん!」
ケロちゃんも晴人さんの問いかけに嬉しそうに尻尾振ってるし…
「だから、もうちょっと天使に戻るの先になりそうなんだ!」
「晴人…」
そんな…
晴人さんは私のせいで天使に戻れなかったの…?
「美花!」
不意に晴人さんに呼ばれる
「これで良かったんだよ。誰も悲しまないし、誰も死なずに消滅もしなくてすんだから…」
涙で晴人さんが歪んで見える
「だから…俺が天使に戻るまでの間、蓮音の事よろしく頼むな♪」
笑っているのがわかる
晴人さんも…
ケロちゃんも…
みんなも…
『…はい…はい、晴人さん…』
「もう、泣くなよ?美花!笑顔が素敵なのに♪ほら、スマーイル!」
この後、泣きながら笑う私を見たみんながお腹を抱えて爆笑しちゃって、蓮音が怒り出す
皆の笑い声と蓮音の怒鳴り声とはしゃいでるケロちゃんの声で悪魔ハウスが包まれている
私…思い出せて良かった…
皆のことも…
そして蓮音への気持ちも…
こんなに好きって気持ちは私の心を温かくしてくれるから
「今度アイツに会うたら言おう思うとったけど、まだ教えるのはやめとこ…」
2人になって私の部屋に来た蓮音は眉間にシワを寄せてブツブツと独り言を呟いてる
『何かあったの?』
「ん?あぁ、美花には言うてもええな。あんな、晴人が深く関わった男の子な…今度、生まれ変わんねん」
『わあ!ホントに?凄い!!』
蓮音がちょっと嬉しそうに顔を近づけてきた
「誰んとこやと思う?」
それはきっと…
関西弁監修 : of* かや様
-end-
2011.11.18
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