LAST SONG | ナノ





See You







「ごめんな…」

『…ううん…。元気そう…』

「…ん、ま…な…」



目の前にいるのはさっきまで話題になっていた透

どうしてここに居るのか

何故、俳優を辞めてしまったのか

何で私に会いに来たのか…

聞きたい事は山程あるのに、彼の顔をまともに見れなくて

3年前と私は何も変わってない



「3年前、急に連絡しなくなってゴメン…。連絡先も変わったのに、俺…」

『…いいの。もう、終わった事だし、今会いに来てくれたから…』



私、心にもない事言ってる

終わった事にしたくないはずなのに…

ひっぱたいて、泣いて、すがって
感情的になる自分を透にさらけ出した事もない



「なぁ、俺さ…」



透の顔色…悪い…?

なんとなくそう感じたけど、彼の紡ぎ出す言葉を逃すまいとしている自分がいた

心のどこかで、透は私とよりを戻そうとしているんじゃないかと思っていたから…



「ライナスを復活させようと思って…」

『え…』



私との事じゃなくて、ライナス…

私にとってもライナスは大事な場所

だけど…



「だから…美花との事をちゃんとケリをつけようと思って…」

『…ライナスの為に…?』

「…あぁ…」



揺るぎない透の瞳の輝きに吸い込まれそうになる

ライナスを復活させる為に俳優を引退したんだ…

透の頭の中は、ライナスの事で一杯になっている…

私の入る余地なんて少しもないんだと思いしらされた



「理人の曲を世に出したいんだ…なるべく早く…」



わかるよ…わかるけど…

わかりたくない…



『…理人の…?』

「あぁ。…高校を卒業する時、皆で約束しただろ?いつかライナスを復活させるって…」



そっか…理人の為か…



『…うん。それで、私との事が気まずいままライナスを始められないから…今日、来たの?』

「……」



嘘でも、違うって否定して欲しかった

正直すぎて…ホントにへこんじゃうよ…



「勝手な事を言ってるのはわかってる。酷い事言ってる事も…」

『…ねぇ…。一つだけ聞いてもいい…?』



ライナスを復活させたい透の気持ちはわかった

私よりもライナス…

そして、理人の事を一番に考えている事も…

透が静かに頷くのを確認してから言葉を紡ぐ



『あの時…3年前は…私の事、好きだった?…本気…だった…?』


今更、こんな事を聞いてどうするんだろう…

私は…何を期待しているんだろう…



「好きじゃなかったら…付き合ってない…」






























美花の仕事場を訪ねた

彼女にした事を思えば、ホントは顔を合わせづらい

だけど…

俺には時間がなかった

3年ぶりに会った美花は、何も変わってなくて

はにかむような笑顔もそのままだった

あんなに酷い事をしたのに、俺に笑いかけるのか…



「今度会う時は…ライナスの美花として…」

『…うん…。今日は会いに来てくれてありがとう。透に会えて嬉しかった♪』



笑顔を見せる君の頬に涙が一粒零れた



「…あ…」

『ご、ごめん!…あの…見なかった事にして…』



クルッと背中を向けて俺に見せない様に涙を拭く

ホントは…今でも美花の事が好きだ…

でも…

その背中を抱きしめてやる事は、今の俺には出来ない…

期待させる事も…

絶対に…

絶望の中にいる今の俺の支えは…ライナス…































透のその言葉だけで十分だった

堪え切れずに涙が頬を伝ってしまった

空を仰いで気持ちを落ち着ける

不器用なくらい真っすぐで、嘘のつけない貴方だから

私は好きになった

3年という時間は長かったけど、それでも気持ちが揺れるなんて事はなかった

これからは《 仲間 》として透の傍にいられる



『透!これからは、仲間とし…て…』



笑顔で透に向き合おうとした時…



『と…る…?』



透の体がグラリと揺れたかと思うと、そのまま地面に倒れた…

顔色が真っ青で、頭を両手で押さえている



『透!透!…救急車…呼ばないと…』



震える手で携帯を取り出すと、透に携帯を取られた



「…やめ…ろ…」

『透!』

「すぐ…に…治まる…」
























『透、今日はすごくいい天気だよ♪』



病室を訪れて窓を開ける



『後で和哉も来るって。和哉を見たらびっくりするよ…』



透はあの日以来、目を覚まさない

脳に腫瘍が出来ていて、彼は手術を拒否したまま倒れてしまった

俳優を引退し、ライナスを復活させようとしたのはこの為…





透、私ね…

全然、怒ってなんかなかったよ…

連絡がとれなくなった時、テレビの貴方を見て必死に頑張ってるってわかってた

透が思っている以上に、私は透の事想ってるんだよ



あの日…

再会した時、偶然だと喜んでいたのは貴方じゃなく私の方だった

ねぇ…

目を覚ましたら、続きをしよう…?

どこからでもいい

倒れたあの日からでも…

3年前からでも…

バイバイも言わせてくれないのは…嫌だよ…

だから、せめて

笑顔で『またね』と…言わせて…

そして、透の笑顔を…声を聞かせて…



『フフ♪…和哉、来たよ。理人も瞬もいる…』



窓の外に彼らが来たのを確認する



『透のライナスが集まったね…』









Inspiration: See You
-end-

2010.08.17


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