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ピロロロッ!
ウィンディラン本部。
ビッキーが携帯をいじりジムは外を眺めたりとメインルームでそれぞれが寛いでいる中、ソファーに腰かけているサラの携帯の電子音が鳴った。
「はい、もしもし」
どうやらメール音ではなく着信音だったらしい。
彼女はだるそうな声で席を立つ事なく電話に出る。
「…うん。…うん。だからそれは………。」
何度か相槌を打っていたものの途中からは一方的に向こうが話す形になったらしく、彼女はクールな表情を変えないまま電話先の話を聞いていた。
数分相手の話を聞いた後、彼女はわかったとだけ言い返して通話を切った。
「サラ!誰よ、今の電話の相手!」
そこで彼女に近づいてきたのは同じく携帯を握ったビッキー。
どうやらちょっかいを出しに来たようだ。
「お父さんよ」
「なーんだ!てっきり新しい男が出来たのかと思ったのに!」
「男だ?んな事あるわけねーだろ。な、サラには俺しか…」
「はーい。ちょっと皆集まってー」
肩を抱こうとしてきたナイジェルを立って器用にかわし、彼女は全員に集合をかけた。
彼女の呼びかけで次々とテーブルを囲むように集まってくるジム・リッキー・ボビー。
「どうしました?珍しいですね、サラが集合をかけるなんて」
「ちょっと話があるの。全員集まったわね」
周りの顔を見て揃っている事を確認。
彼女は珍しく真剣な顔をして、何か覚悟を決めるように小さく息を吐いた。
「何だよ、変に真面目な顔しやがって。結婚でもするのか?」
ジムが腕を組んで冗談半分に笑いながら言った途端…
「そうよ」
「「…………。」」
彼女の返事はあまりにも簡単すぎて、一同は目を点に。
「え?本当に?」
「本当よ」
「嘘…だよね?」
「だから本当よ」
その言葉が信じられなくて、しつこく何度も訊いてみるジムだが返ってくる言葉は同じ。
「ちょっと待て――ッ!!!」
ガッシャーン!!
沈黙を引き裂き某漫画のように思い切りテーブルをひっくり返したのは、もちろんナイジェルとリッキーだ。
ふたりは鬼の形相のまま彼女の前に立った。
「お前、何寝ぼけた事言ってんだ!?まさか俺との約束忘れたわけじゃねぇだろーな!?」
「約束してない」
「サラ、それはどういう意味ですか!?金ならいくらでも出すっていつも言ってるでしょうが!」
「言われた事ない」
壁に何度も頭を打ちつけ始めるふたりを放っておく事にした彼女は、残りのジム、ビッキー、ボビーに詳しい事情を話し出した。
「まだ絶対するとまでは決まってないわ。まだ見合いの段階」
「見合い?」
首を傾げるビッキー。
「そうよ。ま、勝手に親同士で決めちゃったんだろうけど」
「へぇ。今の時代で見合い結婚とかあるんだね」
サラが見合いをするなんて。
そういえば彼女、今まで恋愛の「れ」の字すら聞いた事なかったから、突然見合いだの結婚だのなかなか実感がわかない。
「で。お前、結婚したらどうなるんだ?」
「さぁね」
ジムの質問も軽く流しながら彼女は小さくため息をついて立ち上がり、
暇を持て余すように自販機のボタンを意味なく押している。
「サラちゃん。その見合いの日にちはいつなんだい?」
続けてボビーも問いかける。
「来週の日曜日」
「来週か。随分急だな」
彼女は目線を床に落としながら呟いて3人を見渡した。
「サラッ!結婚なんてな俺は絶対ぇ認めねーから!殺す!お前が他の野郎の所に行ったら、俺はそいつを射殺する!怒」
「あ、ズルいです!だったらナイジェルが射殺する前に、俺が先にそいつをシメに行きます!」
ナイジェルとリッキーの怒りはおさまっていないらしい。
ふたりの叫び声が耳に入り、ジムは眉を下げて笑った。
「早速殺す計画に入ってるよ。しかもリッキー君?シメるなんて怖い言葉、遣っちゃダメだからね」
サラはそんな光景を見て口元を緩めた。
まるで寂しさという感情を押し殺すような不思議な笑み。
「それじゃ…そんなわけだから。よろしくね」
ウィンクをして彼女はメンバーを部屋に残したまま、自室へ戻ってしまった。
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