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「…………。」
だらしなく床に座り込んでいるジムにナイジェルは黙って近づく。
そして悔しそうに小声で呟いた。
「惜しい」
「何が!?」
訳もわからぬまま突然壁に投げ飛ばされた上に、自分の隠している気持ちを相手に暴露させられそうになったのだ。
怒るのは当然。
しかし当のナイジェル本人の表情には反省の色はまるでない。
相変わらずこの男は、何を考えているのか長年一緒にいるのにさっぱりわからない。
物凄いドS人間なのか、はたまた単純に人をからかって遊ぶのが趣味なのか…
「お前、カレンダー見てみろよ」
「は?」
なんやかんや関係のない事を考えていると、返事に力が入らなくなり、自分でも情けないと思う程の声が聞こえた。
それより、カレンダーって?
ジムは自分の衝突した壁を見上げる。
あれ?
今日の日付の欄が大きなオレンジ色のハートで可愛らしく囲まれている?
「何だ、このマーク?バレンタイン?いや、違うか」
「今日はビッキーが初めて俺らの仲間に入った日だ。
自分でこんなに派手に書き込んでるくせに、あいつアホだからもう忘れてるらしいな」
一時考え込んだジムは、彼の思惑がわかったらしく両手をポンと叩いた。
「あ、なるほど!『皆忘れてるけど、俺はちゃんと覚えてるぜ!』みたいな感じでいけば良いんだ」
「言い方は気持ち悪いけど、あながち間違ってはいねーな。運良く王子様のリッキー君もその事に気づいてねぇみてーだし。その代わり条件は今日だけだ。まぁ、頑張れや」
「用は済んだ、後は自分でなんとかしろ」と言わんばかりに、頭をボリボリ掻きながら外へ出て行こうとするナイジェル。
「ちょっと待て!」
そんな彼の肩をまたもやガッと掴み、強く引き戻すジム。
「んだよ。俺近所のババァから呼び出しくらってんだ。早く行かなきゃシバかれ…」
「愛の告白って、どうすればいいの?」
「は?」
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