11


隠れている連中がその一声をじっと待つ中、とりあえずふたりは隣同士ソファーに座った。

「イメチェンねぇ。あ、そういえば貴方最近、若者向けの雑誌とか読んでたでしょう?ジム達が大騒ぎしてたわよ」

「それは誤解だ。あの馬鹿共の事は気にすんな」

「ふーん。それとは関係あるの?」

「まぁ…あるっちゃあるような」




……………

「あーもう、じれったいなぁ!」

「言っちゃえよ!『どうだ?今日の俺、格好良いだろ?』って!」


なかなか格好良いと言わないサラに、徐々にじれったさを感じてきたビッキーとジム。

しかしあのクールなアイツが、そう簡単に…しかもあのナイジェルに対してそんな褒め言葉を使うはずもない。

……………





「タバコは?」

「タバコは…今だけ禁煙中…みたいな(本当はめっちゃ吸いてぇけど)」

「禁煙したの!?へぇ、人間変わろうと思えば変われるものなのね」

「…ま…まぁな……ん?」


ナイジェルが何気なく視線を逸らすと、ジムとビッキーが何やら怪しい動きをしていた。

『行け!』『攻めろ』とジェスチャーで表現している。

声は聞こえないものの、そのうるさい動きや口パクに彼は嫌らしく眉間にシワを寄せた。


「どうしたの?」

「あ…いや、なんでもない」

そう、と彼女は特に気にする様子もなく肘を自分の膝に置いた。


「………。」

「あ…あのさ、サラ」

「あ、そうジムと言えば!さっきからジムどころか誰もいないのよ。ナイジェル、どこ行ったか知らない?」


「サラッ!」


突然の彼の大きな声。

この時ばかりは、サラもピクンと身を縮めた。

何か怒らせる事でもしたのだろうか?

そっと彼の顔を下から覗いてみる。


「ど、どうしたの?」

「あ…いや、悪い」


なんだか普段とは違う空気のナイジェル。

服装が違うから?

それとも雰囲気が違うから?

彼は前かがみに体を倒し、サラから丁度顔が隠れるように頬杖をついた。


「ナイジェル…」

「その…なんてーかさ…今日の俺ってどうなの?」

「……っ…」

「だから…良いか悪いか…みてーな…」


珍しく目も合わせてくれず、歯切れも悪い。

その姿で彼女はようやく彼の気持ちがわかったらしい。

可愛いとでも思ったのか。

一時の間を置いて、サラはクスリと笑った。



「良いに決まってるでしょ?格好良いわよ、ナイジェル」

「……っ」







……………


ビッキー&ジム「「言ったぁぁぁ!!!」」

……………






ふと視線を戻すと、そこには笑っている彼女の姿があった。

普段はあまり自分の前では見せてくれない優しい顔。


「サラ、お前」

「でもやっぱり…好きじゃない」

「………っ」




……………

「「…え…?」」
……………





彼女の突然の一言に言葉を失う隠れていた連中。

もちろん、それは目の前にいたナイジェルも同じで。

予想はしていたが。

ここまでハッキリ言われるとは思っていなかっ…


「私はやっぱりいつものナイジェルの方が、ずっと似合ってると思うな」

「…え?」

「なんかだるそうで、どこかやる気がなくて。いつも周りからだらしないとか言われててもなんにも気にしない。それが貴方でしょ?
必死に着飾って格好良く見せようとしてるのはわかるけど、無理してるのバレバレ。確かに見た目は良いけど、でもこれは本物の貴方じゃない」


サラはそう言いながら、彼の胸ポケットからタバコの箱を取り出した。


「はい」

「っ…」

「いいから」


一本を箱から取り出すと、それを彼の口へと持っていき咥えさせる。


「本気なのか?」

「当たり前でしょ」

「………」

「早く…」


黙って顔を見たナイジェルは

彼女のつけたライターの炎に、そっと自分の咥えたタバコの先を近づけた。


[ 192/195 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]