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……………
5人がようやく本部に車で帰ってきた丁度その頃。
メインルームのソファーに力なく座る彼女がいた。
「全く…どこ行っちゃったのよ」
人の気配がない事に気がついたサラは、建物中を歩き回って仲間を探したらしい。
部屋はもちろん、休憩室、トイレ、キッチン等、手当たり次第探してみたが結果は同じ。
どこかに出かけるなんて話も聞いていないし、神隠しにでも遭ったのか。
当然見つかるはずもなく、小さくため息をついた。
「………。」
声にさえ出さなかったものの、彼女は不機嫌な顔でソファーの上に体操座りをする。
「サラ」
「………。」
「サラ」
「……ッ?」
後ろから自分の名前を呼ぶ声?
なんだ、いたんじゃないの。
全く…どこに隠れてたのよ。
ようやく安心した彼女は膝に埋めていた顔を上げ、すぐに後ろを振り返ると
「やぁ!こんにちは!」
「………。」
そこにいたのは七三分けの背の高い黒髪男性。
黒のキッチリしたスーツにシルバーの時計。
磨かれた革靴。
微かに香水の匂いも漂っている。
無駄にキラキラ輝いているその男に、サラは漫画のようにわかりやすく何度か瞬きをした。
「外を見てごらん?今日は良い天気だよ!こんな日は僕はいつも神様に感謝をしているんだ」
「……。」
「神様…こんな素晴らしい太陽を僕達人間に恵んでくれて、どうもありがとう!さぁ!サラも一緒に手を合わせようじゃないか!」
……………
「どうだい!?ふたりの様子は!」
「待て待て、押すなって!」
「今、ナイジェルがサラに声をかけた所よ!」
残りの4人は縦一列に並び、部屋の隅から気づかれないようにふたりの姿を観察していた。
サラはソファーに体操座りをしたまま顔を上げて動かない。
「格好良いって?格好良いって言ったのかい!?」
「いや、まだだ!サラの奴ナイジェルを凝視したまま動かないぞ!どうしたんだ!?」
「格好良すぎて声も出ないんじゃないの?」
……………
「えっ…」
彼女がついに声を発した。
その第一声は…
「どちら様ですか?」
ガーンッ!
その瞬間、整備されたナイジェルの頭に大きな金ダライが落ちた…。
まるでドリフだ。
他4人もまさかの返事にぽかんと開いた口が塞がらない。
「わからないのか!?俺だよ、俺!」
「え?その声…ナイジェル!?」
彼の素の声で、ようやく彼女も男の正体がナイジェルだと気づいた…らしい。
同時にソファーからも立ち上がった。
「そーだよ!」
「ちょっ…どーしちゃったの、その格好!?それにさっきの喋り方も…」
動揺した彼女は「気づかなかった」と何度も呟きながら、サラリーマンのような姿を下から横から隅々まで見る。
「ま…まぁ、イメチェンってやつかな。どうだ?」
「どうだ?って、変わりすぎてビックリしたわよ」
……………
ボビー「…………。」
ビッキー「気づいたのはいいけど、なかなか『格好良い』って言わないね」
ジム「やっぱりちょっと言うのが照れ臭いんじゃないのか?」
……………
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