〜美の追求・レッスンT〜

【身だしなみ】


「オーケー!まずはその服装から改善していきまShow!」


無駄に大きな声のジミー先生。

彼はステージの階段を高い厚底の靴で降り、ナイジェルの服装を右から左から細かくチェック。


「オ〜ウ!この服装はナイスガイの服装とは言えまセェン!!
こんな公園のベンチで寝てるようなオッサンのダッセーファッション!その服装から醸し出す負のオーラが、貴方をダウン↓させてマウスッ!」

「は…はぁ…」


オッサンの頼りない返事。

どうやらまだ彼のテンションの高さについていけてないらしい。

そんな彼の現在の服装は黒のTシャツに紫色のノースリーブジャケット。

下は普通のジーンズ。

突然叩き起こされ「パジャマじゃダメなので」という理由で着たとりあえずの服。

悪くはないのだが、普段着すぎて生地がよれていたり全体的に色褪せている。

とてもじゃないが、レベル高い系色男が着て良い服ではない。


パチン!


そこでジミー先生が指を鳴らすと、ステージに立っていたリッキーが黒のスーツを取り出した。

「なんだ?それ」

「渋谷の女性50人に『男性の格好良い服装は?』というテーマでインタビューしたところ、なんと7割の女性が『スーツ』と答えた事がわかりました!
格好良い男になる第一歩は、まずスーツを身につける事!これを着ればどんな男性でもそれなりに見えるはずです!」


説明するリッキーからそのスーツを受け取ったナイジェル。

「着ればいいんだな?」

「イッエーェス!でも中途半端はNO!NO!
第一ボタンまでシャァアアット!ズボンを腰までアーップ!ネクタイも爽やかリフレェッシュ!!
ピシッと!シャキッと!出来る男を連想させるように!アーユーOK!?」

「あ…あぁ(なんだコイツ、うぜぇ)」


彼はとりあえず受け取ったスーツを持って、近くに設置してあった更衣室へ向かった。

数分後。


「着替えたぞ」

更衣室から出てきたナイジェルは、ただスーツをきちんと着ているだけだがまるで別人。

普段のだるそうな雰囲気がほとんど感じられなくなっている。

パッと見、中堅サラリーマンのような外見だ。


「きゃぁ!良い!ナイジェル、凄く格好良い!」

「そ…そうか?」


ビッキーの褒め言葉に、彼も満更ではなさそうだ。


「それにしても、服装を変えただけで一気に雰囲気変わるなぁ」

「えぇ、似合ってますよ!」


普段はあまり褒められる事に慣れていないせいか、珍しく彼は照れ笑いをしている。

言葉には出さないが相当嬉しそうだ。


「それでは次デェス!問題はその顎髭ね!髭はあったらあったでダンディ☆バット、どうしても年配のオーラが出てきてしまいま〜す!

今目指すはリフレッシュクールメェン!ダンディはノーセンキュー!イッツショリショリターイム!」


ジミー先生が手をパチンと叩くと、ボビーがどこからか剃刀を取り出した。

そこで不満があるのか、ナイジェルが首を傾げる。


「あの…一応これ俺の特徴っつか…そういう感じなんすけど。絶対剃らなきゃダメなんで……うおっ!」


バタン!


そこで剃刀を握ったボビーが、話している途中の彼を強引に押し倒した。

「な…何しやがんだ、テメ…ッ!」


ニヤリと笑うボビー。

手には刃物を持っており、その狂っているかもわからない、ボビー特有の瞬きもせず口だけ動かす動作。

目に映るホラーにナイジェルは途端に凍りついた。


「痛くしませんからねぇ♪はい、あーんしてぇ」

「『あーん』!?ちょっ…待て、剃るだけだろ!?なんで食わせるような言いか…ぎゃぁあああ!!」








……………






「チッ…なんなんだよ。なんでボビーに剃刀なんて危ねーもん持たせてんだ」

「悪い悪い。コイツ髭剃りしかしたくないって聞かなくってさ」

「髭剃りしかしたくないなんて、変態すぎて恐怖だわ」


口から血を流しているナイジェルだが、危機一髪助かったようだ。

無茶苦茶な事をやられたが、どうやら髭自体は綺麗に剃れている。


「あとは髪をセットアップして、靴をセットアップ。顔の筋肉をマッサージでセットアップ、さりげなぁく高級腕時計をセットアップ!オッケェイ!これで見た目はセットアップコンプリート!!」

「………。」


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