……………

「ほーら!早く早く!」

「痛ってーな。んな、引っ張んな!」

「いいから!来てください!」


あの極秘会議から数週間後。

とある休日の朝、ナイジェルは突然ビッキーとリッキーに布団をめくられて叩き起こされた。

何事かと思えば顔も洗わないまま「出かけるから付いて来て」と腕を引っ張られ、手ぶらで外に連れ出される。

無理やり彼を車の後部座席に乗せ、助手席にビッキー、運転席にリッキーが座り、アクセルを踏んで急発進。

「オイ、どこに行くんだ?」

「内緒だよ♪いいからナイジェルは黙って座ってて!」


車で1時間。

隣町まで長旅をして、彼が連れて来られたのは見知らぬ大きなビルだった。


「なんだ?ここ…」

「到着です!」

「さ!いいから入って入って!」

ビルの高さに呆気に取られている彼の手を、若者達は 間髪を容れず引きずり込んで、3人はそのビルの中へと入っていく。








ガチャン!


「っ…?」

エレベーターに乗せられ、随分と高い階のボタンを押す指が目に入る。

そして降りてすぐの大きな扉の前に連れて来られた。

何かのドッキリ企画か?

ふたりに連れられて中に入ったはいいものの、電気はついておらず、視界が完全に奪われる程周りは真っ暗だ。


「おい。どうなって……あれ?」

ナイジェルが手を伸ばすと、さっきまで自分の腕を握っていたビッキーとリッキーがいない。

もちろん名前を呼んでも返事がなく。

どうなってんだ?

ひとりになってしまった彼は部屋の暗さに身動きが取れず、首を右へ左へと振るばかりだ。


「ったく、どこ行きやがったアイツら…」


パッ!


音と同時に突然光が見えた。

スポットライトだ。

目の前は大きなステージになっており、そのスポットライトの中に誰か人のシルエットが見える。


「…ッ…誰だ?」





「イルァッシュァアアアイ!!!!」





そこにいたのは一世代昔に流行ったような超ド派手なアイドル服を着た男性。

割れた顎とサングラス、リーゼントの髪型が特徴的。

白くギラギラ眩しい衣装と、厚底のブーツ。

一目見れば忘れる事は出来ない、超ド級個性派男性だ。


「世の中の美に悩める子羊達よ!集まれェェェェェイイ!!」


突然、男は雄叫びを上げながらクルクルと回り出した。

謎のトランペット演奏が流れ出し、これまた謎の美女軍団が踊りながら男の周りを取り囲む。

まるで某宝塚。


「人は誰でも理想の自分を持っていまァァァス!

格好良くなって女子にモテたい男の子!

可愛くなって憧れの先輩に振り向いてもらいたい女の子!

そして…!」


バッとスポットライトの当たったナイジェルを指差した。


「輝いていたあの頃の自分に戻りたい中年親父!!」


「……ッ…」


「ここはそんな理想の自分に生まれ変われる夢のステージ!

そう、このステージこそが!

ビューティフルキャッツ・ザ・ステェェェェジ!!!」


ポーズを決めた謎の男。

音楽は最高潮に盛り上がり、美女が綺麗に整列、最後はシンバルのド派手な音で締めくくった。


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