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「………ッ!」


ジムは彼女の体をグッと押しやり、無理やり部屋の中へと入ってきた。

彼の突然の行動に驚いたのか、目を丸くしてきょとんとしているビッキー。

その間に扉はゆっくりと閉まってしまった。


「…はぁ」

そんな彼女の顔を見て、苦労人には付きものの大きなため息を吐く。



「な、何よ!?」

「ったく。お前は馬鹿だよな、やっぱり」

「…ッ?」

「地味で目立たない俺が、他人にそんな色々と要求してたら話にならないだろ」



その一言に呆然と固まるビッキー。

彼は怒っても馬鹿にしてもいない、優しい表情を見せてくれている。



「完璧なんて誰も求めてない。美人じゃなくたって、何事にもしっかりしてなくたって、いつも優しくなくたって、俺は全然構わない。

俺が求めてるのは、俺に何かあったら外駆けずり回って、濡れた体でベランダに突っ立って待っていてくれるような、そんな馬鹿正直な奴だ」


「えっ…」


その言葉で強ばっていた全身の力が魔法のように抜けていく。

そして再び目から溢れてきたのは透明な涙だ。

湧き上がる水のように、止めたくても止まらない。


私は、こんな人じゃなくて

もっと格好良くて、派手で、周りの目を引くような目立つ素敵な男性が好きだったはずなのに。

いつも馬鹿にしたりからかってばかりの人に、こんなにも熱い気持ちが込み上げてくる。


いや、本当は初めからわかっていた。


この人は私にとって、なくてはならない人なんだって。

誰にも代えられない大切な存在なんだって。


もうあんな後悔したくない。


だから…


鼻の頭を真っ赤にして



「ジム…」

「そうだ!俺は『ジム』だ!なんだよ、お前ちゃんと呼べるじゃ…」



ビッキーは彼の言葉を塞ぐように胸に飛びついた。



「…ッ…!?」

「うわぁああッ!!」


それと同時に大声で泣き出してしまう。

それはもう、周りの部屋の連中にも聞こえてしまいそうなボリュームで。


「なん…!」

「馬鹿!なんでそんな優しい事ばっか言うの!?なんで…そんなにまでお人好しなの!!?
そんな優しい事言われたら…私ますます…」

「………。」

「…うぅ…」

「仕方ないだろ。俺はこんな性格で生まれてきたんだ」


彼は憎まれ口を叩きながらも、そっと彼女の背中に軽く手を置いた。

男性の大きな手のぬくもり。



「信じらんない…。どんな悪い人に引っかかっても…私知らないから」

「知らなくて結構。ま、お前みたいな小悪魔女には引っかからないように気をつけるから」

「はぁ!?」

「ははっ。じゃ、これで仲直りな」

「………。」

「返事は?」

「……はい」


珍しく素直で小さな返事に、ジムは思わず笑ってしまった。


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