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「全く…妹なら妹と早く言いなさいよ」

サラは来客用のコーヒーカップに中身を注ぎ、テーブルまで持ってきた。


「悪かったな。というか、お前らが勝手に勘違いしただけだろ。なんで俺が謝らなきゃいけないんだ?俺が一体何をした?」

ナイジェル「可愛いなぁ、嬢ちゃん。今度俺と射撃の撃ち合いやらね?」

「聞けっての。なに人の妹勝手に危ない口説き方してるんだ」

リッキー「じゃ俺と一緒に、真ん中にお兄さんを置いて射撃の撃ち合いしませんか?」

「おい。なんで真ん中に俺を置く?口説きつつ、どうして俺を殺す必要がある?」


冗談ですよと笑うリッキーに、口に手を当ててクスクスと笑うローラという女性。

笑い方までおしとやかだ。


「ふふ!本当に楽しい方々ばっかりね。お兄ちゃんのお友達」

「お前も笑うなよ。まぁ…とりあえず悪かったな。なんかよくわかんないけど、色々と心配かけたみたいで」

「全くだ。それにしてもお前ら兄妹、本当に仲良いんだな。あの魚に触るコーナーの所とか、周りから見りゃ恋人同士以外なにものでもなかったぞ」

「まぁな!俺達、ケンカの『ケ』の字も出てきた事ない程…」


ガシャンッ!


ナイジェルの言葉を聞いて途中までは普通に話していたジムだが、突然テーブルを両手で叩いて立ち上がった。

「お前…魚とかなんとか…なんで知ってんだ?まさかつけてきたとか馬鹿な事を言うんじゃ…」

「あぁ、つけてきた。なんかリッキーが携帯のメール見て面白そうだから行こうって」


ナイジェルの言葉で、怖い顔の方向がリッキーへ移動する。


「お前…勝手に携帯見たのか」

「ちょ、待ってください。確かに言い出したのは俺ですが『面白そうだから』とか…そんな理由ではないです。
ただ、ジムと付き合った所で何の得にもならない事を彼女さんに忠告しなきゃと思って」

「可愛い顔してそんな事考えてんのか!今度お前に彼女出来たら、その娘に言うからな!
リッキー君は毎年百単位で猫を拾ってきて餌代を請求する新手の詐欺師ですて!

ったく、気軽に携帯も忘れていけないな」


叫んで疲れたのか、体力がなくなったようにソファーへ座ったジム。

そこで斜め前のボビーが訊いてきた。


「それにしても、妹ちゃんとは仲が良いって前から聞いてたけど、なんでもっと早くに連れて来なかったんだい?」

「あぁ…まぁ、別にわざわざ連れて来る必要もないかなと思ってたし、俺だって会う機会も少ないからな」

「なんで?」

続いてサラからの質問。

その質問にはローラ自身が出されたコーヒーを飲みながら答えた。


「私、日本でアメリカの文化を教える教師になりたくて、日本の学校で勉強してるんです。将来は向こうで仕事をしたいと思っていて。
だから私がこちらに帰ってくるのは年末年始と夏休みと…あとは大事な用事がある時だけなんです」


へぇ…若いのに偉いですね、と呟くサラ。

彼女はそのまま話を続けた。


「今日私がここに帰ってきたのは、丁度長期の研修でこちらに来る機会があって。休みを合わせて何度か兄と会っていました。
本当は今日も博物館で研修があったのですが、授業なんかより普段は会えないお兄ちゃんに会いたいと思ってしまって、仮病を使って休んじゃったんです。全く、ダメな妹でしょう?」


可愛い…。

照れ臭そうに笑う理想の妹に、完全に鼻の下が伸び切っている男性陣。

そんなデレデレしている顔を見て、サラは隣にいたボビーの頭を気持ち良く叩きつけた。



「でも、来て良かった」

「え?」

「だって、いつもお兄ちゃんから話を聞いてる5人にやっとに会えたんですから。いつもこの人達の話ばっかりしてるからね」

「ちょ…何言ってんだよ、馬鹿!」


再びお上品に笑う妹に、顔を真っ赤にする兄。

彼はわざと話題を変えるようにサラの方向を向いた。


「あ、そうだサラ。今日コイツ泊まる場所が決まってないらしいんだよ。空き部屋とかあるだろ?ちょっと今日一日ここに泊めてやりたいんだけどいいか?」

「ええ、構わないわよ」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「当たり前じゃないの。ジムの可愛い妹さんだしね。さ、部屋に案内するわ。ローラさん、付いてきて」

「はい」

安心しきったローラの表情。

女性ふたりは同時に立ち上がり、揃ってメインルームを出て来客用の空き部屋へと向かった。


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