10


本部に帰るとビッキーはジュースを飲んだりテレビを観ていたり、普段と至って変わらない様子だった。

しかし時間が経つにつれ徐々に口数が減り、いい加減我慢が出来なくなったのか、そのうち部屋から飛び出してベランダでずっと外を眺めていた。

恐らくジムの帰りを待っているのだろう。


やはり…あの子もあの光景をどこかで見ていたのかもしれない。












夜の10時。

入浴が済んだ後も、彼女はまたベランダに出ていた。


「いつまであそこにいるつもりなんだろ」

キッチンからメインルームへ飲み物を持ってきたサラの呟きに、ナイジェルがリッキーの顔を見る。


「ジムが帰ってくるまでだろ。オイ、リッキーお前呼んで来いよ」

「無理ですよ。今日は俺の顔を見ても無反応なんですから」


彼女に対しては抜群の説得力を持つリッキーでさえ、どうしようもなく首を横に振る。

さすがのボビーも真面目な顔をしてベランダを見つめていた。


「ビッキーちゃん…風邪引いちゃうよ」


風呂あがりでまだ乾ききっていない体や髪のまま、冷える風が吹きつける外に出ているのだ。

皆心配している。



「はぁ。いいわ、私が行ってくる」


辛そうに目を横にやるナイジェル。

どうしようもなくため息をついたリッキー。

そして心配そうにベランダを見つめるボビー。

そんな男性陣を見てサラは「大丈夫よ」と残し、ベランダへと歩き出した。









「ビッキー。風邪引くわよ、部屋に入りなさい」

「………。」

「そんな所で待ってなくても、ジムは帰ってくるから」

「別にアイツを待ってるわけじゃないよ。ただ、空が綺麗だなって思って…」

「もう充分見たでしょ?ほら早く」





ガチャン!



濡れた髪を揺らしながらビッキーが下を向いた瞬間、玄関の方から鍵の開く音が聞こえた。



「ただいまぁ」

「「………!?」」


間違いない。ジムの声だ。


「…帰ってきた?」

「みたいだな」

その声を聞きつけ、全員は急いでメインルームから玄関へ走り出した。




「ん?どうした?珍しいな、全員でお出迎えなんて」

慌ただしく出迎えた彼らの姿を珍しそうに見ているジム。


……ッ!?


それぞれが目を見開く。

帰ってきたのは…ジムだけじゃない。

その後ろには、なんと例の彼女が立っていたのだ。



(つ…連れて来たぁっ!)




ビッキー以外の心の雄叫び。

今更隠しても無駄だとはわかっているが、慌てて4人はジム達の周りを隠すように取り囲む。


サラ「ちょっ!何連れて来てんの!?ここはアンタの実家じゃないのよ!(小声だが丸聞こえ)」

リッキー「そうですよ!馬鹿!?貴方実は馬鹿だったんですか!?(小声だが普通に聞こえる)」

ナイジェル「とりあえず誤魔化せ!『紹介します。俺の妹だ』みてーな感じで!(小声だが、ちょっとデカい)」

ボビー「僕の妹はボビエですッ!!(普通にデカい)」


「いやーん!誰?ミヒャエルの彼女?可愛い☆」


さっきまでの事態を察知されたくないのか…

ビッキーは背を向けているリッキーに、後ろから飛びついた。


「私達もあんななれるといいね♪」

「え…あ、そうですね…」


どうリアクションを取って良いのかわからず、リッキーは困った顔で天井を見上げた。


「おい、お前らなんか勘違いしてない?コイツは俺の妹だけど…」

「誤魔化しても無駄よ!さっきのナイジェルの声、普通に聞こえてたんだから!」

「いや、だから!」


その瞬間、ジムの後ろにいた彼女がザッと前に出てきて…

取り出した一枚のカードをビッキーに向けた。


「な……ん?」

彼女はそのカードを見て目を細める。

どうやら運転免許証のようだ。

そこに書いてある文字を声に出して呟いた。


「ローラ…リバース?」

「え…。『リバース』って、もしかして」


全員がジムの顔を見る。


彼の本名は「ジム・リバース」


という事は…



「兄がいつもお世話になっております。私、ジム兄さんの妹のローラ・リバースと申します」


優しい笑顔で丁寧にお辞儀をする女性。



「………妹…来た…」


動かなくなる4人。

そのリアクションと空気感は、ボビーの妹が来た時とは全く違うものであった。


[ 174/195 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]