ビッキーは周りでたくさんの人間が動き回っている中、時間が止まったようにひとり呆然と立ち尽くしていた。







【珍しい魚コーナー】


頭上にはその看板が大きく掲げられている。

彼女は信じられない現実を突きつけられ、頭が真っ白になった。


目の前には、ジムと自分なんかよりずっと綺麗で優しそうな女性が楽しそうにデートをしている。

私から見てもお似合いのカップルにしか見えない。

そう見えてしまう自分の目がおかしいんだと、何度擦っても、やはり同じ光景しか映らなかった。


やるせない気持ち。

悔しいのか悲しいのか…それさえもわからない。


アイツは今までなんだかんだ言って、ずっと自分の傍にいてくれたのに。


私だって、それが普通だと思って甘えて。


適当にほっぽっておいても、ずっと私の事を好きなんだろうって思い込んでいたから。

そんな私が大馬鹿者だったんだ。


心のどこかで何かの間違いじゃないかと信じていたのに。


なんで…


どうして?


どうしてこんな事になっちゃったの…?









〜♪

〜♪






「………ッ…」


意識が飛んで棒のように立っていた彼女は、鳴り続けていた自分の携帯電話の音楽に気がつかなかった。

慌てて我に返り、それを開く。


「も…もしもし?」

「あ、やっと出た。ビッキーそろそろ帰るわよ」

電話の向こうからサラの声が聞こえた。

まだ探し始めてそんなに時間が経っていないので、思わず「え?」と漏らしてしまう。


「私とリッキーに社長から急用の呼び出しが入ったの。今日はもう諦めましょう」

「そ、うなんだ。わかっ……っ。」


すぐにその電話の内容が嘘なんだとわかった。

ふと目線をジムから逸らすと、向こう側に隠れているサラと他男性3人の姿が見えたのだ。

彼女達も彼の存在に気づいたらしいが、この状況だ。

きっと私に気を遣ってくれてるんだ。

自然と握っている拳に力が入った。


「ビッキー?どうしたの?」

「っ…な…なんでもないよ。わかった!じゃぁ今から入り口ゲートに行くね!」

「そう。わかった、迷子にならないようにね」

「それはコッチの台詞だよ〜!じゃぁね!」


わざと明るい声で返事をして通話解除のボタンを押す。

電話をしている間にジムとその女性は仲良く並んで別のコーナーへ。

電話が切れた後でも、ビッキーは携帯を耳に当てたままその姿を目で追っていた。


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