……………

「何?ジムに女が出来た?マジでか」

「マジでよ」


なんと。これは大事件だ。

ナイジェルは話を聞いて、思わずテーブルから身を乗り出した。

誰が聞いてるかわからない、とリッキーが人差し指を自分の唇に当てる。


「人に言っちゃダメですよ。これはとりあえず極秘情報なんですから」

「わーってるよ」

「…で、その彼女っていうのは、どんな女の人なんだい?」


今度はボビーからの質問だ。


「私達もまだ『ローラ』という名前しか知らないのよ」

「ローラ?地味な彼に全く似合わないキュートな名前だね」

「普通に失礼ね、ボビー。それより…」


サラは先程から全く口を開かない人物を見た。


「どーするのよ?ビッキー」

「えっ?」


不意を突かれたような顔で、彼女は間の抜けた返事をした。

まるで話を聞いていない。

心ここにあらずといった表情だ。


「え?じゃないわよ。気になるんでしょ?アイツの事」

「そっ…そんな事ないよ!何言ってんのー!」

「嘘ついたってダメよ。顔に書いてあるんだから」


サラが腕を組んだ所で、ナイジェルは木の椅子に手を置きながら訊いた。


「んで。なんでわかったんだよ?アイツに女が出来たなんて」

「コレです」


リッキーがポケットに手を入れて取り出したのは、メインルームで発見したジムの青い携帯電話。

名前もよく知らないキャラクターのストラップが付いている。


「ジムの携帯じゃねーか」

「さっきこの携帯にメールがあったんですよ。気になってそれを開いてみると…」



From:ローラ
件名:なし
--------------------------------------------
今日、一緒に行くうみ楽園って水族館楽しみだね☆
この間のネズミの国遊園地も楽しかったけど^^
--------------------------------------------


メールの送り主は、「ローラ」という名前できちんと登録されていた。

内容を見る限りジムはこのローラという女性と数回デートを繰り返しているようで、ふたりは友人か何らかの関係を持っている事が読んで取れる。

仲の良さから恋人という線がかなり濃い。


「………。」

食い入るように画面を見て、映し出された文字にナイジェルとボビーは「へぇ」と言葉を漏らした。


「ってわけよ」

「いやー、それにしても驚いたな。アイツ、外の女には興味ないと思ってたのに」


画面から顔を離し、ナイジェルは椅子に座り直す。


ボビー「いや、驚いたな。まさか君達ふたりが他人の携帯を勝手に覗くような犯罪を犯していたなんて」

「関係ないでしょ。とりあえず悪い事をしたとは思ってるけど」


そこでひとりが椅子からすっと立ち上がった。

それは珍しく今までほとんど口を開かなかったビッキーだ。

顔はまだ別の事ばかり考えている表情。


「どうしたの?」

「私…急用思い出しちゃった!ちょっと出かけてくるね!」


彼女は無理に作ったような笑顔を見せ、扉へと走り出す。

何を考えているなんて、全員にはとっくにバレているのに。


「ビッキー!」

リッキーに名前を呼ばれ、ビクンと止まる彼女。

彼は立ち上がって彼女の背中を見た。


「行こうとしているんでしょう?ジムの所に」

「………。」


ビッキーは無言のままドアノブを握っている。

少し手が震えているようにも見えて…


「だったら、俺達も行きますよ」

「えっ?」


ゆっくりと振り返った。

後ろでは皆笑っている。

手前にいたリッキーも、いつものように優しい笑顔を見せて口を開いた。


「あの人が悪い女性に引っかかってないか、皆心配ですからね」


[ 168/195 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]