12


「コノォォ!このくらいの失恋じゃ負け…ギャッ!」


最下位から這い上がってきたボビーだったが、ゴール手前に倒れていたサラとリッキーに躓いてまたもや転倒してしまった。


「ァア!!もう何なんだい君達!どうしてこんな所で寝ているん…フギャッ!」

「きゃぁ!イッターイ!」

「痛てて…。お前らなんでこんな所で寝てんだよ!」


その後に走ってきたビッキーとナイジェルも、人溜まりに足を取られて転倒。


「仕方ないでしょう!?足くじいて立てないの!」

「きゃぁああ!リッキー大丈夫!?」

「あー、もう何なんだよ!ゴールは目の前だってのに!」

「……(抜け駆け)」

「「コラァア!!ボビー、お前何ひとりだけ抜け駆けしようとしてんだ!」」


そっとケンカの輪から抜け出そうとしたボビーに暴力軍団が群がる。


「僕は君達みたいに暇じゃない!切実に豪華商品が欲しいと思ってるんだ!」

「させるかぁッ!優勝は私よ!」

「いや、俺だ!テメーら、たまには年長者を敬ったらどうだ!?」

「真剣勝負に年齢なんて関係ないわ!焼酎一年分は私のものよ!(※商品は焼酎ではありません)」

「もうダリーよ!面倒くせぇ!」

「「リッキー!?」」


ゴール直前でゴチャゴチャとケンカを始め、ついに殴る蹴るの攻防戦がスタートした。

もうこうなってしまうと誰にも止められない。


「ちょっと!皆さん、落ち着いてください!」

アナウンサーも声をかけるが効果なし。

もうこれは警備員が出動しなければならないか…


そう思った瞬間だった。



「……ッ!!」


混乱と同時にボビーの踵がゴールラインにピッタリと重なった!



「「………!」」

周りで見ていた全員も、そしてボビー本人も驚いた表情で固まる。

会場全体も結果に注目してしまい、言葉を失っていた。


「や…やったぁ!僕が優勝だぁあああ!!」


「決まったぁ!!優勝はボビー選手!ボビー選手だぁ!」


「「キャァァァァ!!!」」


予想だにしていないトラブルの末、優勝はなんとあのボビーに決定。

アナウンサーの最高潮の声が響き渡り、観客も驚異の逆転劇にスタンディングオベーション。

勝った本人も喜びのあまり感極まって跳ね回ってしまう。


その他の4人は「そんな…」と、悲しみに打ちひしがれてしまったが…





「キャッホー!豪華商品ゲットだぜ!」

「…おい」

「あ?今ちょっと忙しいから話しかけないでくれたまえ」

「おい!」

「だーかーら!」


緑タイツの背中がポンポンと軽く叩かれる。

そして振り返ったそこには、乱闘にひとりだけ参加していなかったジムの姿があった。




「優勝は俺だ」












「……へ?」








言葉の意味がわからず、大きな目を点にしてしまったボビー。

競技に参加していたメンバーも目が点。

アナウンサーと解説員も目が点。

もちろん観客もスタッフも全員の目が点。


「悲しいよなぁ。だってお前らどころかこの会場にいる人全員、歩いてゴールする俺の存在に気づかないんだから」

「「…………。」」


醜い乱闘を繰り広げていたメンバーに、ラストの冷たい風が吹きつけた。


[ 162/195 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]