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「さぁ、ビッキー選手!残るはあと1周!一気にラストスパートです!」
「キャッハー!豪華商品は私の物よぉ!」
彼女のスピードとテンションはますます勢いを増す。
小さな体だが、そのスピードは男性が本気で走っても追いつけない程。
観客のほとんどが彼女がトップでゴールすると思い込んでいる。
が…
「豪華商品『リッキーとラブラブハワイ旅行』はもう目のま…ッ!」
じゅぅぅぅ…!
「ん?」
足元から奇妙な音がして、彼女は思わず足を止めてしまった。
なんか…こげ臭い。
そして左足の裏から、何やらモクモクと煙が出ている。
「…ッ!」
熱ぅぅぅっ!!!
思わず跳ね上がり、そのまま尻餅をついてしまった。
彼女の左足があった所には、まだ火が残っているタバコが一本。
「タバコ!?まさか…!」
「悪いな、ビッキー」
犯人はクールに笑いながら、先頭だったビッキーを楽々追い抜いた。
「ナイジェル、なんなの!こんなの反則よ!怒」
「初めにアナウンサーがどんな手を使ってもいいって言ってたじゃねーか!カーブでライン踏むくらいインコースを走る癖があった自分を恨むんだな!」
「ムッカつくぅ!!」
実況者「あーっと!一位を独走していたビッキー選手になんとも大人気ない汚い手を使い、ナイジェル選手が一気に追い抜いてトップに浮上しました!良い子の皆は真似しちゃいけません!」
立ち上がるのに時間がかかっているビッキーを追い抜き、リッキーとサラは並んでトップのナイジェルの背中を追っていた。
しかし彼は見た目によらず(歳の割に)足が速く、追いつけそうでなかなか追いつけない。
このままでは彼が一位でゴールをしてしまう。
「クッ。やるわね、ナイジェル」
サラは同じ速さで走っている隣のリッキーに目をやった。
走るのに精一杯のようで、とても何か秘策があるようには見えない。
(彼にも何の作戦もないみたいだし…。仕方ないか)
彼女は走りながら、ひとつにくくっていた髪を解いた。
「サラ…?何をするつもりですか?」
リッキーも彼女の突然の行動に汗を拭いながら訊く。
「まぁ、見てなさい」
「フッ…悪いな、サラ!残念だが今はお色気攻撃は通用しねーぞ!」
ナイジェルは後ろを軽く振り返りながら忠告をしたが…
「お色気?そんな甘っちょろい考えじゃ優勝出来ないって事、私だってわかってるわよ!」
バチンッ!!
「痛ッ!」
彼女の最後の言葉と同時に何か弾くような音が聞こえ、ナイジェルが前へ転倒した。
そして倒れている間に後ろのふたりがあっさりと抜かしてしまう。
痛恨のミスだ。
「痛ぇ!アイツまさかのゴム鉄砲してきたぞ!小学生かよ、クソが!」
背後で首を抑えながらギャーギャー騒いでいるお年寄りを尻目に、前の若者ふたりは着々とゴールに近づいていた。
「さすがサラですね!頼りになります!」
「まぁね」
リッキーの嬉しそうな顔に、彼女も自慢気に返す…
その時だった。
「でも…」
彼の表情が突然暗くなり、オーラが180度変わった。
異様な雰囲気にサラも何かを感じ取る。
この男はただニコニコ笑って隣を走っていたわけではない。
「ッ…?」
「勝つのは俺です」
爽やかなスーパールーキーからは想像出来ないような真っ黒い言葉。
そしていつもの可愛い笑顔とは程遠い…
極悪顔。
「リッキ…ッ…!」
彼は突然しゃがみ込み、前に出ていた右足を彼女の足へとひっかけるように蹴りを入れた!
シュッ!
「……ッ!?」
しかしサラも攻撃をかわすように、上手く彼の足が来た途端にジャンプ。
その反射神経に思わず顔をしかめた。
「クッ!」
「フフッ!アンタの行動パターンなんて大体読めてんのよ」
今までの低レベルな戦いとは違う上級者の戦い。
お互い心の内を読み、仲良く走っているように見せかけ、突然防御を攻撃に転換して戦闘態勢に入った。
全ては自分が豪華商品を手に入れる為に。
だったが…
グキッ!
バタンッ!
「………!?」
大きな音と共に土煙が舞った。
それは紛れもなく、先程綺麗に攻撃をかわしていたサラが倒れてしまった音だ。
…どうやら着地に失敗したらしい。
「…………。」
隣のリッキーもしゃがんだまま呆然と固まったが…
「なんだかよくわかんないですけど…運が悪かったみたいですね」
また悪そうに、顔の上半分に黒い影を落としてニヤリと笑った。
「それじゃ、貴方は一時ここで寝ておいてくだ…」
グキッ!
「グァッ!」
バタンッ!!
完全に有利に立っていたリッキーもまた、倒れている彼女の足に躓いて、続くように地面に倒れてしまった。
実況者「あぁ!前のふたりは共倒れだぁ!さぁ、これで勝負はわからなくなりました!豪華商品を手にするのは一体どの選手になるのでしょうか!」
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