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……………

「なんか周りが騒がしくなってきたみたいだね!」

「そうですね」


長い廊下。

こちらはまるでカップルのように腕を組んでいるリッキーとビッキー。

組んでいるといっても、ビッキーがベッタリとくっ付いているだけ。

彼の方は気味の悪い建物内を見渡すのに精一杯でそれどころではなさそうだ。


「ねぇ♪リッキー!」

「…何ですか?」

「りっきぃ♪」

彼女は目を閉じて、唇を尖がらせている。


「だから何ですか?」

「もう!女心ってのを全然わかってないんだから!」

「そんな事言われましても…」


彼は苦笑いしながら頬を掻く。

とりあえず今の彼の頭の中には、携帯を見つけてすぐにここから逃げ出す事しかないようだ。



「…ん?」

そこで自然と止まった足。

ふたりが歩く前方に何やら人影が見える。

その人物は何も言わずに黙って立ち尽くしていた。


「誰かいますね」

「わかんないよ!もしかしたらハリック(ジム)達かもしれないし!行ってみましょ!」

「え!?大丈夫ですか…」


お構いなしに彼女は不安そうな彼の腕をグイグイ引っ張る。


「ちょ、ハリック!探したの…」




「っ…?」


彼女の足が止まり、引っ張られていたリッキーの足ももちろん止まる。

男は微動だにせず、ただ黙ってこちらを見ている。

ただならぬその人物の空気に、自分達の仲間ではない事を察した。

あまりの不気味さに、勝手に足が後ろに退ってしまう。


「あ…あの!私達、怪しい者じゃありません!」

ビッキーは彼にしがみつきながら震え声。

「失礼ですが、どちら様ですか…?」

リッキーの問いかけに、その人物は何も答えずにギョロリと目を向けた。

やたら大きな瞳。

蛇のような目つきに気持ち悪ささえ覚える。


「ヒッ!」

恐怖のあまり、お互いの腕を掴み合った。

辺りは怖い程静まり返っていて、自分の心臓の音が聞こえてくるようだ。


『―ッ…――』



そしてソイツが右腕を伸ばした瞬間だった。







「……ッ!!!」


ビッキーは大きく目を見開く。


それも仕方ない。



これは…!


これは……!!





彼女は今、憧れのリッキーにお姫様抱っこをされている!!


彼は謎の人物から逃げる為に、ビッキーを抱えて走り出していたのだ。


「…あああ////!!!!(瞳が輝いて、背景に薔薇が咲き乱れている)

きやぁぁぁ!リッキー、大胆――――!!!!!」


彼女は抱っこされたまま、興奮して彼の顔に抱きついた。


「あああやめてやめて!前!前見えない!」

「いやぁ!『お前しか見えない』なんてぇ!!!」

「勝手に『お』を付けないでください!マジで捨てていきますよ!怒」


「「………!!?」」





ダダダダダダダダダダ!!







『『ア″アア″ア″ア″ア′″!!!』』








なんとその人物は狂気な雄叫びを上げながら、凄いスピードで追いかけてきた。

しかも手を使い、四足で走ってくる。


「来たぁっ!」

驚いたリッキーの頭は真っ白になり、放心状態のままスピードを上げる。


『『ギィィァ″ァ″ァァァ″ァ!!!』』

「ぎゃぁぁぁ!!!!!!!」

「リッキー、大好きぃぃ!!!」


様々な怪しい叫び声がテレビ局内に木霊している。

その間にも奴はリッキーよりもスピードを上げて、どんどんふたりに迫り来る。

その速さはとても人間とは思えないくらい。


「何ですか!?絶対幽霊ですよ!あれは!」



ズドンッ!!


「痛ッ!」

パニックになって大きな独り言を叫んでいたリッキーは、何者かにぶつかって跳ね返されるように倒れ込んだ。

その衝撃で抱えていたビッキーも床へ投げ出される。


「イタタ…何なんです………ん?ああああああ!!」


座り込んでいる彼の前に立っていたのは、カツラを被って女装をしているナイジェルだった。


「おい…」

「オッ…オカマァ!!!(号泣)」

「落ち着け、リッキー!!」


ナイジェルの隣にいたジムが彼の肩を掴む。


「あああ!!地味ぃいい!!!!!(気絶)」

「どうして『地味』で気絶するんだ!」

「リッキー、よく見なさい!」


サラの一言に泡を噴いて気絶しかけた彼は正気を取り戻し、そっと後ろを振り向いた。

とそこで、パチンと良いタイミングで電気がついて…


「あ…」


暗闇に慣れてしまった目を擦りながら、彼はじっと奴の姿を見る。

彼はやはり、人間ではなかった。


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