時計をなくしたの。大切な、おばあちゃんから貰った時計なの。
今日は友達と遊ぶ予定があってね、寝坊して、家を出るのが遅くなっちゃったの。だから急いでて、その時計を腕につける間もないくらいにね。
それで落としたことに気がついたのは友達と落ち合ってから。
その時点でもう諦めたよ、だって集合場所まではポケモンの空を飛ぶで来たんだもん。落とした正確な場所が分からない上、誰かが拾って持っていっちゃった可能性だってある訳だし。
なのに、私ってやっぱり諦めが悪いのね。帰りにね、暗闇の中その時計が落ちてないかって一生懸命探してたの。
だから帰ってくるのがこんなに遅くなっちゃったんだ、ごめんね、ゴールド。

雨に濡れた髪の毛を拭いてやってる間、名前は言い訳じみた言葉を並べる。名前はオレに嘘をつく奴じゃないと分かっているけど、あったことをそんなにペラペラと詳しく話せる方が逆に言い訳じみているんだから、言葉とは不思議だとつくづく思っていると。
「ね、お腹すいた」
冷蔵庫に作っておいた餃子を置いといた、若干吐き捨てるようにそう言うと名前はありがとうと言って足早に台所へと向かった。
よほど腹が減っていたのか。もしそうならなんだか悪いことをした気分になる。だってオレが作った料理なんて食えたもんじゃないから。けど名前はいつもキッチリ完食してくれる、結構優しいんだ。まあ、ただ食い意地張りすぎてるだけかもしれねえけど。
「……」
無言でお世辞にも美味しいとは言えないし、形も綺麗ではないゴールドが作った餃子を食べる。
具は皮からはみ出ているし、所々焦げていて食べれない。
だけど何も食べないよりかは幾分かマシだ、時計探しで疲労していた私の体を、ゴールドの餃子が温めていってくれる。
「なあ、名前」
台所でひとり黙々と餃子を食べている名前の前に座って、しばらく俯いていたけど、ふと名案が浮かんだから顔を上げて名前を呼んでみた。
名前はなに、とでも言いたげな顔でこちらを見る。オレはちらりと目だけで皿を見ると、餃子の焦げた部分が食べられる部分とはどう見ても隔離された状況になっていた。
「あのよ、時計だけど」
「うん」
「今度、オレが買ってやるから」
「…うん」
二度目の返事にはやはり少し元気がなくて。あの時計をいかに気に入っていたのかよく分かるものとなっていた。そんな名前を見てからじゃちょっと言いにくかったけど、オレはどうしても伝えたかった。名前と、約束しときたかった。
―確か、なくした時計って黄色だったろ。今度はなくしても目立ってすぐ見つかるような、ホウオウみてえな虹色の時計、買ってやるから。約束だ。
やべえ決まった、オレ超かっこいい。けれど反対に名前は驚いたような顔をし、餃子を掴んでいた箸を止めた。
やっぱりまずかったかな、やべえどうしよう。そんなことを考えていると上からひとつ咳ばらいが聞こえて、それから。
「うん、お願い」
そう言って笑った名前が、世界一愛おしく思えた。



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