シルバーが骨折した。
利き手の左腕を。
その他にも背中やらなんやら強打したから入院した。全治一ヶ月だと。
なんでもシロガネ山でポケモンを捕獲しようとしたら崖がら落ちたらしい。よくそれで生きてたよな、つーかお前そんなドジキャラだったっけと言ってやると五月蝿い帰れと言われた。
なんだよせっかく見舞いに来てやったのに。そりゃあシルバーの見舞いだったらブルー先輩とかクリスの方がいいだろうけど?あれが…ダ、ダチに対する態度かっつーの馬鹿シルバー。
初めての見舞いの帰り道。一階へ降りようとエレベーターへ向かうと、廊下に薄ピンクのパジャマを着た大人しそうなギャルがひとり、苦しそうにしゃがみ込んでいた。
「オイ、大丈夫っすか?」
こういう時に放っとけないのがオレの良いところだよな、まあオレには長所っつーのが山ほどあんだけどな!
するとギャルは顔を上げた。
服装が入院してる奴っぽかったから予想はしてたけど、かなり顔色が悪かった。
「…看護士さん、呼ん…で、もらえます…か」
ギャルの声はか細くて、集中しないと聞き取れないほどだった。
「え?ああ、待ってろ」
オレはとりあえず立ち上がって看護士を探そうとした。調度いいことに廊下を通ったひとりの看護士を見つけたので、そいつを呼び留めた。
そいつはまだ苦しそうにしゃがみ込むギャルを見るや否や慌てて駆け寄ってきてギャルを抱えた。
「名前ちゃん!?大丈夫!?今先生呼ぶからね」
突然のことにオレは驚き何も出来なかった、本当なら関係ないオレなんか帰っていいんだろうけどそいつが運ばれて行ってからもずっとそこに立ち尽くしていた。
数十分後、にぎやかな声が聞こえてきて顔を上げた。するとさっきしゃがみ込んでたギャルが車椅子に乗って数人の看護士とか医者に囲まれながら笑ってた、ああ無事だったんだな良かったないいことしたなと思いつつ早く帰ろうとエレベーターへ向かうと、なにやらそのギャルがこちらへ向かってきた気配がして。
周りの看護士達が知り合いかい?とか尋ねてるけどギャルはううん、違うのと答えながらゆっくりやって来る。
オレはまだ来ないエレベーターとそいつがオレの前まで来るのどっちが早いかな、と考えながら立っていた。
「すみません、」
早かった。ギャルの方が。
「…なに」
オレが言葉を発した瞬間エレベーターが到着した。
「先ほどはありがとうございました、看護士さんを呼んでくれて」
ギャルの後ろの方で看護士達がざわつきはじめてる、そりゃそうだ。
「別に、当然のことしただけだろ」
でも、とギャルは続けるがオレはたまたま通り掛かったクソガキに「かっぷるだー!」と冷やかされたことがなんか恥ずかしいっつーか…今絶対顔赤くなってる、こいつに気がつかれるのが嫌で思わず足を進めた。
「あ、待ってくださ」
オレは黙ってエレベーターに乗る。
「あの、本当にありがとうございました!」
エレベーターの扉が閉じ始める。
窓越しにまだ見つめてくるそいつに、オレは帽子のつばを下げると少しだけ頷いてやった。
恋のはじまり