※捏造あり
僕にはみんなに視えないものが視えます。
今から十数年前、僕が幼い頃のこと。その頃にはもう自分がどんな体質を持っているのか分かりきっていて、だから学校の作文発表会でそれを言ったんだ。
どうやらあの頃の僕は、自分の事は分かっても、周囲がどんな反応をするかって事は考えられなかったらしい。
当然僕は同級生や学校の先生達、更には両親にまで気味悪がられて祖父の元へと預けられる羽目になったのだ。
僕の祖父はとても厳しい人だった。だから僕は彼が苦手だった。恐れに近い感情すら、彼に対し抱いていたのだ。
けれども祖父の元で育てられた方が、僕は充実して生きていたと思う。何より祖父といると、楽しかった。確かに礼儀やマナーに煩いお年寄りで、その頃まだ生まれて十年にいくかいかないかだった僕には鬱陶しいな、と感じる事もあった。でもあんな大人が、世の中には必要だと思うのだ。
あれから十数年経ち、祖父は数年前に逝ってしまった。亡くなる数日前にはもうその事実は視えていたけれど。
「マツバさん、おれ、もうどうしていいかわかんねえよ」
そして、現在。次は僕が若者に人生の伊呂波を教えるべきなのかな。でも正直、僕はまだそこまで歳をとってないと思うんだけど。
「聞いてますか、マツバさん!」
「え、ああ、」
もう…と怒ったように頬を膨らませる少年はナマエ君といって、僕のちょっとした顔見知りだ。
「だから、好きな女の誕生日って、何あげたらいいんすかね…?」
照れたように笑うナマエ君を見て、意気消沈、思わず耳を塞ぎたくなる。
そう、顔見知りなんかじゃない。僕はナマエ君の事が好きだ。僕は男で、ナマエ君も男。それは重々承知済み、しかもナマエ君には好きな女の子がいる。しかもなんと幼馴染み。
僕が圧倒的に不利って事は誰が見ても分かるだろうけど、諦めるつもりなんて更々ない。
「うん、彼女が好きなものでいいんじゃないかな」
いつもこうだ。僕は適当にあしらっているのにナマエ君は一向に僕を嫌ってくれそうにない。いっそ嫌われた方が楽なのに、なんて弱虫が考えることだね。
やっぱりそうッスよねー、なんて俯くナマエ君の目は、言葉とは裏腹にきらきら輝いているように見えた。
ねえ、ナマエ君のその綺麗な目には何が映っているのかな。
少なくとも僕が見ているような汚い世界ではないんだろう。
世界はひとつではない事を知っていますか。
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