take.1
「ハーっヤーっトさん!」

来た。これで何回目だろう、今日という今日は無視に限る。ポケモンを一匹も持っていない、言わばトレーナーではないナマエが俺のジムに通うようになったのは今から一ヶ月くらい前のことだ。いや、通うというより押しかける、の方がしっくりくるかもしれない。さっきも言ったが、彼女はトレーナーではない。それなのにほぼ毎日ジムに来るというのはおかしい。そして彼女の目的もまた、変わっている。
本人曰く、俺に会う為に来ているらしい。
数週間前、流石に毎日来過ぎだろうと俺が聞いた時、照れ臭さなんて微塵も感じさせないくらいハキハキと答えてくれたのだから勿論印象に残っている。本来なら喜ぶべきところなのだろうが、こうも干渉してくると俺の調子が狂うと言ったところか、何しろ男女交際など生まれてこの方したことがないのだから仕方ない。そりゃあ男なら誰だって無邪気で純粋な女の子にあんなこと言われれば嬉しいと思う。でもナマエはそれだけじゃない、どこか他の女の子と違う雰囲気を纏っているから関わりにくいのだ。毎日来るのだって、普通なら友達同士遊びの約束がひとつやふたつあったっておかしくない年頃だ。
ナマエは友達がいないのだろうか。それはそれで可哀相に思えてきた…なんて、何同情しているんだ。
ナマエがジムに通うようになってから、俺の女の子からの人気はがた落ち、彼女持ちに興味はないらしい。彼女じゃないのに、なんて弱音は鳥ポケモン達にしか吐くことも出来ず。ジム協会からも最近の成績について五月蝿く指摘されるし、だから今日という今日は迷惑だってはっきり言ってやろう。そう心に決めていた。

「今まで甘く見ていたが、いい加減迷惑だ。もう来ないでくれ」

いつも通りの昼下がり、ジムにやって来たナマエに名前を呼ばれた時から俺の手は冷や汗でべたべただった。
出来るだけ冷たい視線をおくって、低い声で、最低な人間として終わらせたい。俺は君から好かれるようないい人じゃないんだって、態度で示した。
当のナマエは、大きな目を更に大きく見開いて、それから視線をゆらゆらさせたけど、何も言わず出て行った。
意外だった。
何でだどうしてだって、ジムに響き渡るくらいの大声で問い詰められると思っていたから。それは覚悟ではなく、もしかしたら期待だったのかもしれない。

心に大きな穴が空いた。



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