大人になってゆくのが怖かった。だから逃避行を繰り返した。
殴って、怒鳴って、蹴飛ばして。裏切るのも裏切られるのももう慣れた。まともに通っていない学校では煙たがられ、教師からは非難を受ける。
希望なんかなくて、なんの為に生きているのか分からなかった。
暗い路地裏、野良猫にパン屑をやりながら考える、わたしが本当に望んでたものって、なんだったっけ、って。
「見つけた」
気がつくと目の前にはひとりの少年が立っていた。パン屑をやるのに夢中で気がつかなかったとは、不覚にも程がある。何しろわたしのことをよく思っていない不良がわたしを潰そうと、いきなり襲ってくることは数え切れない程あるのだから。
「…何か用?」
見たところわたしと同世代だろうか。眼鏡をして更にワイシャツのボタンをきっちり留めネクタイをしている辺り、喧嘩するような奴には見えない。よく見ればそいつが着ているのはわたしの学校の制服だった。学校一の不良と言われるわたしに興味本位で近づいてきたのだろうか、こういうことなら何件か例があった。
さっさと何処かに行ってほしい。この路地裏はわたしの基地のようなものだ、踏み荒らすというならいくらヘナチョコ眼鏡でも容赦はしない。
「…やっぱり覚えてないか」
覚えてない?
「…何のつもりか知らないけど、わたしはあんたと会った覚えはない。今が初対面だ、消えろ」
その日の夜のことだった。
夢をみたのだ。ひとりの男の子が、わたしを助けてくれる夢。
「名前」
あたたかくて、わたしはそれを掴んで初めて人のあたたかさを、生きる意味を知ったような気がした。
「夢だった」
エンドロールはやってこない
title byAコース
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久し振りのチェレン夢に挫折。初音ミクの「ロミオとシンデレラ」と「カゲロウデイズ」を混ぜたみたいな話を書きたかった。