クリスマスの予定は、といくら聞いても教えてくれなかった理由。ずっと考えても分からなかったけど、今やっと分かった。
ヒウンシティにある、有名なケーキ屋。折角のクリスマス、本当はトウヤと一緒に過ごしたかったんだけど。成る程ね、そういう事か。
「クリスマスケーキ、ひとつください」
「かしこまりまし…って名前!?」
とすん。トウヤが持ち上げた白いケーキの入った箱が、地面に落ちる音がした。
「…はあ…最悪」
「何が?偉いじゃん、バイトなんてさ」
忙しそうに行き交う人々、眩しいくらいに輝くイルミネーション。
調度トウヤも交代の時間だったらしく、わたしはトウヤとふたり、店から少し離れた場所にあるベンチに座った。
「…うっせ」
恥ずかしそうに俯いたトウヤは、サンタクロースの衣装を着ている。
「似合ってるよー、バイト?なんで教えてくれなかったのさ」
「お前絶対笑うだろ、だから言いたくなかったんだよ」
ふーん。でも酷いじゃん。まあ案の定笑ったけどさ。
普段は誰にでも上から目線で、照れる事なんかないんじゃないかってくらいポーカーフェイスなトウヤが、サンタのコスプレをして頬を紅く染めてる。なんだか可笑しくて、無意識に口角が上がってしまう。(勿論、何ニヤついてんだよ、ってトウヤに頭叩かれたけど。)
他愛もない話をしていると、小さな男の子が私達の方に駆け寄ってきた。
「サンタさんだーっ!」
サンタの格好をしているからだろう、楽しそうにトウヤに向かって抱き着いた。すみません、と言いながら両親とおぼしき大人も駆けてきた。
男の子は両親が止めるのも聞かず、トウヤの頬をぺちぺちと叩いている。
あ、ちょっと、ずるいかも。でも小さい子に好かれるトウヤも、わたしは好きだから。我慢我慢。
当の本人は、迷惑そうにしながらもちゃんと遊んであげてるし。トウヤのこういう所、好き。
暫くしてから、男の子は楽しそうに手を振りながら両親と一緒に去っていた。
「トウヤってよく小さい子に好かれるよね」
「…好かれたくて好かれてる訳じゃねえよ」
トウヤがまたふて腐れたように俯いた時だった。宙に白いものが浮いていて、見上げると、
「っトウヤ!見て雪!」
「…本当だ」
キラキラ輝きながら、雪が降っていた。
「…なあ」
「ん?何?」
振り返ると、サンタ帽を被せられた。
「…わ、なに…」
「…メリー、クリスマス」
雪が降る中、鼻を赤くしながらトウヤのお祝いは、なんだか、とても。
「メリークリスマス!」
みんなが幸せになればいいな、って。
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すべての人に愛を。