月は好きですか?
行きつけのカフェでひとり紅茶を飲む。ブリーダーをしている私の、お決まりの休日の過ごし方だった。
「え、」
いきなり男の子に話しかけられたものだから、私はびっくりして飲みかけの紅茶を零してしまった。
「…あ、すみません」
大丈夫ですよ、僕こそ突然話しかけてしまってすみません。彼は言い、ポケットからハンカチを取り出し零した紅茶を拭いてくれた。
彼はこの店の名物、三つ子ジムリーダーの次男、コーンさん。瞳も髪の毛も、綺麗な青色。片目は髪の毛に隠れていて、ミステリアスな雰囲気と、穏やかな印象があった。
「…いつも土曜日、この店に来てくれてますよね」
「え?」
「…いや、お客様の顔って、案外覚えちゃうものなんですよ」
「そうなんですか」
さりげなく店内を見渡してみると、この時間帯はお客さんの入りが悪いらしく、あまりお客さんはいなかった。私は成る程、それなら毎週来ているのだから顔を覚えられても不思議ではないなと納得する。
「…あの、さっき言ってた月って…?」
驚いて紅茶を零してしまったけど、コーンさんが最初に言った言葉は覚えていたし、何より気になっていた。コーンさん、月とか好きなのかな。
「皆既月食のことです、今夜なんですよ」
言いながらコーンさんが微笑んだものだから、思わず高鳴った鼓動に焦ってしまう。顔が熱くなっていくのを感じた。
「あ、えっと皆既月食って、月が地球の本影に入ることで、一時的に月の全面が隠される現象ですよね…?」
私は月とか天体のことに詳しくないので、確認の為に言ったつもりだったが、どうやらコーンさんは私を同士か何かと勘違いしたらしく、両手をとってきた。
「そうなんですよ!月が太陽に隠れてしまうんです。すごいと思いませんか!?」
すごいとは思うけど、今の私にはそんなことを言う余裕はなくて。だって、普段は冷静なコーンさんがこんなに興奮してるし、コーンさんは整った顔立ちだから、つまり、そんなコーンさんに両手を握られている状況なんだもん。まともに言葉を発することすら出来ない。
「…あ、」
暫くコーンさんの専門的なマシンガントークが続いていたかと思うと、いきなり止まった。どうしたのかと黙ってコーンさんを見つめていれば、コーンさんはみるみる内に赤くなっていった。どうやら私同様、両手を繋いでいる状況にようやく気づいて慌てているらしい。
そんなコーンさんが可笑しくて、思わず笑ってしまった。







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赤くなったコーンくんください。


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