今日は11月11日。そう…恋する乙女にとっては2月のバレンタイン級に重大な、かつロマンチックに感じられるポッキーの日である。
この日の為にと買っておいた大量のポッキーの箱。それらを今日一気に食べ切るつもりでノボリさんに会いに行く。
「ノボリさんっ、ポッキーゲームしましょう!」
地下鉄の管理室の扉を開けた途端、ノボリさんはすぐに振り向いて怪訝そうな顔をした。失礼な。
「名前様、申し訳ございませんが私にその様な行為は…」
「えー!お願いしますよぅ、トウコちゃんもベルも、お母さんだってお父さんとやってるんですよ!?私だけ相手がいないなんて嫌です、お願いします!」
そう、そうなのだ。断られることは十二分に予想していたけれど、皆で一緒に買った大量のポッキーの箱。
私だけポッキーの日が終わっても山積みのままなんて考えたくもない。
両手を顔の前で合わせて、必死に嘆願する。こんなこと言ってるけど、私のノボリさんへの想いは本物だ。
お人よしなノボリさんなら、きっとやってくれる筈、しかもキスも出来て一石二鳥だなんて卑怯なこと考えてたからバチが当たったのかな。
「…つまり名前様は、別に私とではなくても良いのでは?」
ずっと黙っていたノボリさんから放たれた言葉の羅列は、あまりにも冷たすぎて私は一瞬それが本当にノボリさんの声なのかと疑う程だった。
「…え…?」
「そうでございましょう?さっきから聞いていますと、ポッキーを全て食べ尽くしてくれる人なら誰でもいい。名前様の言い分はそう聞こえます。ならば私ではなくもっと甘い物が好きな、クダリの様な一緒に方と食べた方が効率も宜しいのではないでしょうか」
なにを言われているのか分からなかった。だけど段々ノボリさんの言葉ひとつひとつが心に直接刺さってくるようで、それ痛くて、
なにも言えなかった。ノボリさんはただそうでしょう?とでも言いたげな面持ちで私を見つめていた。
気がついたら頬を、涙が伝っていた。
驚いたノボリさんが口を開く前に言わなければと、なんとか絞り出した声はか細いものとなっていた。
「ち…が、私は、ノボリさんとがいいんです…」
自分でもなにを言っているのか分からなかった、ただノボリさんの誤解を解きたくて必死で、それだけだった。
「ノボリさんとしか、ポッキー、ゲーム、したくありませ…!?」
言葉の途中で抱きしめられた。初めて感じるノボリさんの体温は、あたたかいというより熱くて、例えるなら沸騰したばかりのお湯みたいだった。常に冷静沈着なノボリさんの体温は、きっと氷みたいに冷たいんだろうなあと予想していたから、尚更びっくりした。
「申し訳ございません、少々度が過ぎました…」
抱きしめられたままの状態で、呟くような優しい声でそう言われた。
私は返す言葉が見つからなくて、代わりにノボリさんの広い背中にこっそり腕を回してぎゅっと掴んだ。
どうやらそれだけでノボリさんには伝わったみたいだ。急に体を離されると、さっきより幾分か低い声で言われた。
「それではポッキーゲーム、始めましょうか」
そう言ってノボリさんは、怪しく笑った。
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初めてノボリさん書きました、口調こんなんで良かったかな…