人間は欲望の塊だ。他人を羨み、自分を見つめ直そうともしない。それ故赤子の時から、欲しい物があると駄々をこねなかなか折れてくれないのだ。あんな小さな頃から欲望に忠実とは、人類はあと百年としないうちに絶滅してしまうのではないかと時折心配になる。
飲み干したコーヒーをテーブルの上に置いてから、彼を真っ直ぐ見据えた。まだ熱さの残るコーヒーカップを両手で弄る、Nはそれを繰り返しているだけだった。
「何がしたいの」
私か言葉を発すると、Nが顔を上げたので視線が合った。
「私を追い詰めて、何がしたいの」
もう一度私が知りたい内容を詳しく言った。けれどもNが質問に答える事はなかった。
予想はしていたが、この場合どう返していいのかが分からず、私はとりあえず質問を変えてみる事にした。
「…質問を変えるわ、」
目線を机の上にぽつんと置かれたコーヒーカップに移すと、まだほうほうと沸き立つ湯気が見えた。
「何が欲しいの」
私の唇から零れ出たたった数文字の言葉は、だだっ広い室内に反響し、そしてNは顔を上げた。
―僕が名前に付け回るのはね、幼い頃からなんでも与えられてきて、何不自由なく育った僕にもただ一つ欲しい物があるからなんだ。しかも名前じゃないと駄目な、そんな物―。
嗚呼僕は、
「君との物語が欲しいよ」
鳴り響く時計の音が頭に響いて、煩く不快なものとなった。
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最初の部分は、某サッカーアニメのOP2に影響されました