病んデレ


コウキくんは優しいから。優しいから大丈夫だろうって、私は彼に甘えすぎてた。
そんな筈、なかったのに。

「名前」
銀色のナイフが私の首筋に宛がわれた。つまりコウキくんがそれを持つ手を横に引けば、私の首からは多少なりとも血が流れ出ることとなる。
どうしてこうなってしまったんだろう。いつものようにコウキくんの家を訪ねただけ、なのに、なんで。
「コウキくん、」
ナイフはまだ私の首に宛がわれたまま。後ろ手に縛られているせいで抵抗することも出来ず。その恐怖心からか、やっとのことで喉から出た言葉は震えていて、でもそれからすぐに、散った。
静寂で包まれていた部屋にコウキくんの嗚咽が響いたから。あれ、コウキくん、泣いてるの?
コウキくんが泣くなんて、一度たりとも見たことがない光景だった。だから私は恐怖心より優越感の方が増してしまって、最後にコウキくんがナイフを持つ手に力を入れたのに気がつかなかった。
「名前」
もう一度名前を呼ばれたけど、なあにって答えるより先にコウキくんがナイフを持つ手を引いた。

「ごめんね」
なんでコウキくんが謝るの?なんで泣いてるの?
聞きたかったけど聞けなかった。でもね、これだけは伝えておきたかったなあ。
ごめんねしか言えなくて、



ごめんね。


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