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 トム・リドル少年は、齢9歳にして既に孤児院内において絶対的権力を持っていた。少しでも彼の機嫌を損ねると仕返しが飛んでくるので、誰もが彼を恐れ、大人までもが気味悪がって嫌厭していた。高慢にも、彼は自分は特別な人間だと思い込んでいたのだ。そう、彼女が来るまでは。


「トム、また意地悪しようとしたのね?」

 まただ、と思った。ビリーのチビが僕をバカにしたからまた魔法を使って懲らしめてやろうと思ったのに、またしてもナマエがすんでのところで止めに来た。腹いせにナマエに意地悪しようにも、彼女も魔法が使えるものだからやったって意味が無い。こいつが来てから僕の築き上げてきたものが全て崩れ去ってしまった。こいつさえいなければ。

 ナマエはいつまでもグズグズと泣いているビリーに、「ほら見て!」と手のひらから次々に溢れ出す花を見せた。途端にビリーは笑顔を浮かべる。心底バカバカしい魔法だ。しかしナマエは笑顔でこちらに振り向くと、
「トムも、はいどーぞ」
とその花を僕の頭の上に乗せた。

「やめろよ」

 頭をブンブンと乱暴に振ると、ぽとりと花が落ちる。僕はそれを足で思い切り踏みつけた。ざまぁみろ。ナマエは一瞬悲しい顔をしたが、それでも尚「まだ出せるもんねー!」と僕の頭の上に花を乗せる。こんな調子で僕が何したってめげないものだから、余計に腹が立った。


「僕に構うのは辞めろ。どうせナマエも僕を監視するように言われてるんだろう?」
「違うよ。どうしてそう思うの?」
「……僕が」

 僕が変だから。そこまで言いかけて言うのを辞めた。ナマエが来てからは、今や魔法が使える変な奴は僕だけでは無くなっていたのだ。
 僕だけのものだったのに、という気持ちと、味方がいるという安心感が複雑にこんがらがってお腹の辺りでフワフワと漂っていて、爆発しそうだった。

「トムは皆に優しくしてごらんよ」
「嫌だ。先に僕のこと変な奴って言ったのはあっちだ」
「それでまた意地悪したらずっと終わらないよ」

 なんなんだ、偉そうに説教垂れて。僕はイライラして石をナマエに投げつけたが、その石はナマエを不自然に避けて速度を落とし、ぽとっと情けなく落ちた。

「トムのこと心配して言ってるんだよ」

 ナマエは眉毛を八の字にしてそう言った。僕はなんだかむず痒くなって、その場から走って逃げた。



◇◇◇


 ナマエの11歳の誕生日に、ウール孤児院に来訪者があった。ダンブルドアと名乗るその老人は、ホグワーツという魔法学校の教師だと言う。ナマエは魔法を勉強をする為、休暇以外の日はそのホグワーツで過ごすことになるらしい。こんな場所から離れられるなんてナマエが心底羨ましいと思ったが、予想外にもナマエは行きたくないと泣き出していた。僕はナマエの部屋の外から、こっそり聞き耳を立てた。

「ナマエ、学校に通うのは魔法をコントロールする術を学ぶ為じゃよ。別に一生ここへ戻って来れないわけじゃないのだから。」
「……トムは?」
「……トムはまだ10歳になったばかりじゃからのう、あと1年は待たねば」
「私トムが心配なんです」

 僕は自分の耳を疑った。ナマエが学校に行きたくないのは、どうやら僕が心配だからという理由らしかった。ナマエは僕を3歳児だとでも思っているのか。

「トムは1人でも大丈夫じゃよ。なぁ、トム」

 ゆっくりと目の前のドアが開いて、目を真っ赤にしたナマエと目が合った。どうやらこの老人には聞き耳を立てていたことなどバレバレだったらしい。

「……トム、良い子にしてないとホグワーツには入れないんだって」

 ナマエは不安そうな顔で僕に向かってそう言った。まるで僕が良い子ではないような口振りだ。それからナマエは僕の元へ駆け寄ると、僕を思い切り抱きしめた。

「私がいなくても良い子にしててね。来年一緒にホグワーツに通おうね!」

僕は自分でも口元が緩むのを感じていた。



ちちんぷいぷい、こっちへおいで

title by … 失青




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