人気がないひんやりとした廊下を早歩きしながら寮に向かう。
今日もまたあいつらにやられてしまった。擦りむいた腕がじんじんと痛み顔を歪める。
確かハナハッカのエキスがまだ残っていたはずだ、そう思考していると後ろから声をかけられた。

「あらミスター・スネイプ、またやられたの」
「ミョウジ、貴様…」

相変わらずクスクス笑うミョウジを睨み付けると、ミョウジは気にもとめないといった顔で肩を竦める。むかつく。僕はそれを無視してまた歩き出した。

「待って待って!医務室行かないの?」
「行かない」

早歩きする僕に必死に走りながら着いてくるミョウジ。この光景を何度経験したことだろう。デジャヴュとは違う、こいつがいつも着いてくるだけなのだが。
「待ってよ、セブルス!」と後ろで息を切らして喚いているミョウジを尻目に談話室へ続く階段をかけ降りる。と言うより、僕がいつ名前で呼んでいいなんて言っただろうか。どうやらヤツは僕を苛立たせる天才らしい。

談話室に入ると真っ先に自室に籠った。幸い同室の者達はいない。ポッター達とミョウジのせいで苛々していた僕は「検知不可能拡大呪文」が施してある小さな箱を取り出し、中に詰め込んだ魔法薬を全てベッドの上にぶちまけた。
手当たり次第にラベルを調べ、やっとの思いでハナハッカと書かれた瓶を見つけたが、中は空っぽになっていた。怪我する度に使っていたからだろう。薬草が入った小さな棚を漁り探してみれば、煎じるのに必要な薬草は見付からなかった。
自然に治るのを待つか、そう諦めかけた時にガチャリと扉が開く。

「無くなった頃だろうと思って」
そう言うミョウジの手には小さな瓶が握られていた。ここは男子寮だというのに、ミョウジは堂々と中に入り僕のベッドの縁に座る。
僕の腕を取ろうとするミョウジの手を振り払い「自分で出来る」と言えば「あっそ」と下を向いた。
やめてくれ、そんな傷付いた顔をされたら、まるで僕が悪いことしたみたいじゃないか。

二人の間に長い沈黙が流れる。
でも僕はこの時間が嫌いじゃなかった。


気づかないで愚かな僕

僕はミョウジに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「ありがとう、ナマエ」と呟いたが、やっぱりミョウジはそれを聞き逃しはしなかった。
title … 舌



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -